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【尺八用語】☆「手」とは?
分かっているようで分かっていない「手」について。
先日、「鳳鐸(虚鐸)」の曲の解説を改めて調べており、竹内史光師の解説には、
「三虚霊の部分部分の手を取り合わせ、つなぎの手を入れて、一曲にまとめられたものとも云う。」
とある。
これを日本語話者ではない生徒さんに分かりやすく説明するには…、
「手」ってどうやって翻訳するんだ?・・・。
となった。
自分には「手」の意味は何となく分かるけど、ちゃんと言葉で説明するにはどうしたら良いのでしょう。
実は「手」が無くても意味が通じる。
「三虚霊の部分部分を取り合わせ、つなぎを入れて、一曲にまとめられたものとも云う。」
「手」って必要なの?
早速、尺八研究家神田可遊師に質問したところ、ここでの「手」は「旋律」というような意味でしょう、とのこと。
おお、しっくりきます。
因に!(ここは大事)
「三虚霊の部分部分の手を取り合わせ、つなぎの手を入れて、一曲にまとめられたものとも云う。」
この鳳鐸の解説は、稲垣衣白師が『樋口對山遺譜』で「虚鐸」は「三虚霊の手を取り入れて一曲にしたもの。(富森虚山説)」と書かれていたものを採用したということ。
しかしながら富森虚山説は間違いで、「鳳鐸」とは小林紫山が「虚鐸」を改題したもので、原曲は對山が要約した琴古流「真虚霊」。
富森虚山説は間違いが多いという事なので、皆さんもご注意を。
「鳳鐸」の原曲は「三虚霊」からではなく琴古流の「真虚霊」であるということです。
ところで、その他にも尺八特有の「手」がある。
スリ手
ユリ手
入手
替手
など、
あとは、
手が多かったり、少なかったり
手を入れたり、はぶいたり
(これは神田師が稽古中に実際使われていた。)
…また「折り」「ごろ」「息なやし」といった現在まで続く手ももうこの頃には存在していた。
連管の時は相手の人違たごうことあらば其手について吹べし。
普段使う「手」を含む言葉は、誰でもきっと沢山思い浮かぶはずだ。
あの手この手。
行く手をはばむ。
手が空く
手に負えない。
手八丁口八丁。
などなど。
こちらの辞書でも100以上ある。
単語も、手法、派手、上手、厚手、手当等々、いくらでも出てくる。
「手」の意味を分類すると、
[一] 脊椎動物の前肢の末端部分の総称。
[二] 物の形状または機能を(一)に見立てていう。
[三] (一)を用いてさまざまな行為をすることに関していう。
[四] (一)で物を持つところから、所有することに関していう。
[五] 事を行なうのに(一)を用いるところから、事を行なうための方法や技術に関していう。
[六] ある方面や種類。
[五]の中の「手」の意味に、
③ 琴、笛、鼓など、音曲のわざ。奏法。また転じて、一定の曲、または調子、譜。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「この三人の人、ただ琴をのみひく、されば、そひゐて習ふに、ひとつの手のこさず習ひとりつ」
※山家集(12C後)中「人にも聞かせぬ和琴のて引きならしけるをききて」
かなり古くから、音曲のわざ、奏法、曲、の意味で使われていたのだ。
「合いの手を入れる」という例が音楽に関することだということは誰でも分かるかもしれない。
神田可遊師によると、「手」とはもともとは一節切で、一節切本来の「曲」の意味であり、尺八でも「古伝本手三曲」(琴古手帖)というように本「曲」の意味で使われるとのこと。
「手技・手法」という意味では
「打つ手・押す手・踊る手」
その他、誰かの本に書いてないか調べてみたところ、
手
一手
手附け
入手
スリ手
ユリ手
藤田鈴朗著『尺八通解』
替手
手が異なった二つの旋律が同時に奏せられる事で、一定の区間を二通りの旋律が走るのである。別に調子を変え、一曲全体の替手として本手を離れて一曲をなすもの。
入手
之は間を補う為め又はその時の色どりに臨時附加された音。
藤田鈴朗著『尺八通解』
などがあった。
また、先述の「旋律」では、
「山越の手」とか「子別れの手」という使い方をし、「特有の旋律」の意味もあるとのこと。
その他、
「手」を付ける
これは作曲ではなく、もとからある曲に手を加える(付ける)意味なので、別の「旋律」の意味ととらえてもいいかもしれない。
琴古先生霧海篪虚空菅掻獅子ノ四曲ニ双調黄鐘ノ手ヲ付ル是則雲井調子曙調子也
「鳳将雛」という曲に関して、
右者師父琴古手附仕候
とあり、『法器尺八相傳略系』では、「鳳将雛」は細川月翁が「曲を作る」とあるので、文字通り手を付けたと思われる。
さらに、
「本手」の意味
本手
日本伝統音楽における合奏用語。長唄(ながうた)をはじめとする江戸時代の三味線音楽と、地歌(じうた)において、合奏の場合の原旋律のことをいう。長唄や浄瑠璃(じょうるり)の器楽合奏の部分、すなわち合方(あいかた)のなかには、原旋律とそれに対する旋律が演奏される部分があるが、この場合の原旋律を本手といい、それに対する旋律を替手(かえで)という。替手は本手とまったく異なる旋律で、両方とも三味線で奏する場合と、本手を三味線、替手を箏(こと)のように異なる楽器で演奏する場合がある。替手は、一つの本手に対して一つではなく、2種以上作曲されることもある。また地歌において、本手をのせる短い単純な基本的旋律型である「地(じ)」も替手の一種である。これに対して、本手の一オクターブ上の旋律を演奏する場合があり、この対旋律を上調子(うわぢょうし)という。
また三味線組唄のなかで、石村検校(けんぎょう)の作品といわれる七曲を、破手(はで)とよばれる数曲に対してとくに本手とよぶ。
さらに、明暗(めいあん)流尺八外曲(がいきょく)においては、宗教的な性格をもち、比較的古くから伝承されている曲のことを本手と称している。 [渡辺尚子]
本手
日本音楽の用語。基本の手の意。 (1) 合奏用語 「替手」などに対する原旋律のパートをいう。 (2) 楽曲分類名称 「破手」などに対する基本曲。三味線組歌の総称でもあったが,そのうちの最古典『琉球組』以下7曲だけを,のちの派手組以下に対して特に「本手」または「本手組」といい,「表組」とも称する。胡弓曲でも,その本来の本曲の別称。
尺八曲では,特に明暗流において,本曲のうちの最重要古伝の3曲を除く曲中,比較的古くからある宗教性の濃いものを本手といい,『鹿の遠音』や『鶴の巣籠』など芸術性の濃いものを破手ということもある。
簡単に言うと、古い曲のことを「本手」という。
このことから、
「調子」のことを「本手調子」とも言うことの意味がようやくわかりました。
「なんとか調子」という曲が後々出てきたので、区別のために「本手」を付け加えたのでしょうか。
錦風流では「本調子の調」と言う曲があるので、またややこしい。
こうして調べてみると、ああ「手」はそういうことだったのね、何となく知ってたかも。なんて最初から知ってた気分になりますが、「手」の翻訳もできなかった自分を振り返りますと、まだまだ知らないことが山ほどあります。
まさに、尺八研究家の神田可遊師には手取り足取り教えてもらってばかりで、自分の無知さ加減に手を焼き、手を拱いておりますが、八方手を尽くして手を抜かないように頑張らねばですね。(大変なことに手を染めてしまったもんだ…笑)
そんなこんなで、
分かっているようで分かっていない【尺八用語】
手
についてでした♪
情報提供
尺八研究家 神田可遊師
参考文献
富森虚山著『明暗尺八通解』
藤田鈴朗著『尺八通解』
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