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復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第3話

 キバリノ神官の怒りは予測していたので、アルトゥールの《防護》は間に合った。青い光は薄い防護膜となる。アルトゥールの前に立つリーシアンの盾になった。
 《衝撃》を受けて青い光の防護膜はたわむ。リーシアンは大斧を構える。巨大な刃の戦斧。
 刃を支えるのは、太い頑丈な、樅(もみ)の木の柄(つか)。北の地の樹林の木。いくつもの、呪術の印が刻み込まれていた。
 再度キバリノ神官が神技を使う。また弾かれる。次の瞬間には《防護》を抜け、キリバノ神官に肉薄する。

「小しゃくな」
 キバリノ神官は、吐き捨てる。
 美女の腰の脇にそれぞれ小刀一本ずつ。それが抜き放たれた。リーシアンは右の一本をかわす。左のもう一本は、北の地の戦士の右肩を捉(とら)えた。
「くそ」
 右肩に走るしびれ。分厚い鎖帷子(くさりかたびら)を通しても痛みが伝わる。血は流れず、皮膚も破れず。鈍い痛みだけが鎧の下に。
 美女の手にある小刀は蒼白く光る。彼女自身から放たれている微光と似た光。月の色のようでもあり、闇から漏れ出る染みのようでもある。
 だが美女は二人を敵にする不利を悟ったのか、すぐに踵(きびす)を返して逃げ去った。
「追うか?」
 リーシアンは振り返らずに言う。
「ああ。そこに地下聖堂があるんだろう」
 リーシアンは先に走り出す。女は身軽で、重い鎖帷子を衣服の下に着込んでいる二人にはなかなか追い付けなかった。それでも何とか追いかけ続ける。

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