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ヒーローでも英雄でもなく

 TwitterXで発見した青年漫画のご紹介と感想です。




 この漫画に出てくる人たちは、主人公も含めて超人的な能力を持つわけでも、尖った個性があるわけでもない。

 むしろどこにでもいそうな一般人の解像度を高め、かつその善性を強調したキャラ作りとストーリー展開と言えるだろう。

 最初に紹介した物語では、いわゆる土建屋の下請けに対する待遇の改善を訴えて一人でデモをする初老の男性が描かれる。

 この話では主人公であるゲンは脇にどき、デモをする男性を見守り、応援する立場となる。

 政治的な、思想的な、宗教的な立場に依らない、一人の市民としてのデモであるからこそ意味があると主人公は言うのである。

 政治的な思想的な宗教的なつながりは、団結と助け合いをもたらすかも知れないが、一方で排他的となり、党派性による都合を現実の問題より優先すらしてしまう。

 全てがそうではないが、そうなることも多いだろう。それは現実でも同じだと思う。

 主人公ゲンはだからこそ、党派性に依らず、空理空論にもならず、現場の立場から立ち上がる初老の男性を応援したのである。

 一人で声をあげ続けるうちにどんどん賛同者が増え、最後には往来を埋め尽くす光景はなかなか感動的である。

 おそらくこの問題は、現実と同じく作中でもなかなか解決はしないであろう。それでも一歩を踏み出したのが大事なのである。

 何か自分にできる事から始める。それで物語の中ですぐに解決しなくてもよい。少しだけでも前に進めた事こそがテーマでありメッセージである。

 超人的な能力を持つ主人公が問題を解決してしまう物語ではないが、だからこそそうしたストーリーとは違う読み味がある。

 それは現実に生きる読者への、現実的な勇気づけである。

 二番目に紹介した物語は、主人公の解体屋ゲンが、より身近に感じられる形での力づけを行う。彼の仕事ぶりに見ていた人々は元気を得る。

 言ってしまえばそれだけの話だが、登場人物のリアリティあふれる解像度の高さに、納得感が増す。

 単なる『いい話』ではない、真に迫るものがあるのだ。

 しかし、ヒロイックだったり英雄的な主人公のほうがヒットはしやすいのかも知れない。

 同じく社会問題を扱った『美味しんぼ』の主人公は、ぐうたら社員だが、傑出した料理の能力を持っていた。それでほぼ一話のうちにあらゆる問題を解決してしまう。

 たまに実の父親の海原雄山が立ちふさがり、敗北を喫することもあったが、基本的には超人的な能力の持ち主として描かれていたと思う。

 今回紹介した漫画には、そのような超人的な主人公も他の登場人物も存在しない。だから地味な印象を与える。

 しかし長年連載を続けてきた長期シリーズらしい。目立ったヒット作だけでなく、地道にロングランを続ける作品にも、良作はあるのだろう。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。また次回の記事もよろしくお願いします。

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