復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第17話
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リーシアンは、それを聞いてにやりと笑ってみせた。 後ろから続いて階段を上がる。
「俺はハイランのことは気に入らん。かなり危険な奴だと思っている。しかし少なくともこの件に関する限り、お前は、いや俺たちはと言った方がいいな、救われた面もあるんだ」
ここで言葉を切って、紫水晶の色の瞳の青年神官の視線を正面から受けとめた。二人とも階段の途中で立ち止まる。
「お前の依頼人も裁きの対象を支払わずに済んだ。それでいて憎いヘンダーランはあの有様なんだ。それはある意味、ハイランのおかげと言えるんだぜ」
アルトゥールが何か言い返そうとすると、それをリーシアンはさえぎって続けた。
「いや待て、本来あるべき女神の教えに反するっていうのは分かるさ。奴が、その何だ? 女神の猟犬とかいうのでなければ、本来は出来ることじゃなかったんだろう。代償は必ず裁きを願う者に支払わせる。それが決まりなんだろ。だけどな、物事は決して何らかの決まり通りに上手くいくもんばっかりじゃないのさ」
何かの決まり通りにいかない。それがアルトゥールに再度、過去の失敗を思い出させた。
「確かに、それはそうだ。あの時、そう、魔女ルードラが敵であった時もそうだった。邪悪な魔女は逃げた。僕もジュリアもルードラを倒せなかった。これは僕の油断と自惚(うぬぼ)れが招いたことだ。自惚れは失敗を招く。お前の言う通りだよ」
アルトゥールは視線を床に落とした。軽くため息をつく。続けて、
「だけど僕の依頼人は、裁きの代償を払わずに呪いから解放された。彼らが慕う領主のトリアンテ女伯爵も、その美しい姿と地位を取り戻せた。今では森の中の村で平和に静かに暮らしている。それが事実。そう、それが事実なんだ」
と、言った。
「依頼人は、それでいいって言ったのか」
「いいと言ってくれたよ。少なくとも僕にはそう言ってくれたんだ。彼らは裁きの代償を支払わずに、元の幸せな暮らしを取り戻せた。だから魔女に対する復讐までは望まないと、まあ少なくとも僕に対してはそう言ってくれたわけだ」
リーシアンはいつもの癖でにやりと笑ったが、その表情はアルトゥールには見えない。
「ルードラっていうのはかなり強い魔女なんだろ? まあ俺が依頼人の立場でもそこらで手を打つね。話を元に戻そう。ハイランのおかげで俺たちは、ヘンダーランや闇の月の女神の神官と戦わずに倒すことが出来たんだ。ここで一つ考えてみろ。ハイランと対立するのは、そんなに大事なことなのかってな」
「お前、僕に変な奴がまとわりついたら殺すって言ってなかったか?」
北の地の戦士は、それに直接は答えない。
「狩りをしているんだろう、裁きの神官さん?」
「狩りを?」
「お前は何のためにネフィアルの神官をやっている? 悪を狩るためなのか?」
即座に返す。
「いいや、それは違う。僕は女神の猟犬ではない」
アルトゥールは再びリーシアンに背を向けた。女神の猟犬について、もっとくわしく話す必要があると感じた。階段を上り始める。
「『法の国』の時代に、事が起きてから裁きを行うというのでは、守るべき民たちの受ける害が大きくなり過ぎるというので、こちらから先んじて害悪をもたらすモノを倒す必要があると考えられていた」
リーシアンの頭に入るよう、ゆっくりと話す。
「当時は、あるいは今でも邪悪な存在と呼ぶが、それらを駆り出す者たちがいた。女神の猟犬と呼ばれてる者たちだ。彼らは本来は裁きを行うことは許されていなかった。理由は言わなくても分かるな?」
「ああ、分かるよ。ハイランのように、勝手な真似をするからだな」
「そうだ。しかし彼らの多くが、悪を狩り続ける中で、徐々に精神が蝕まれて異常をきたすようになった。 あるいは最初から、そのような異常な偏った人間だけが女神の猟犬になれたのかも知れない」
階段の踊り場に着いた。立ち止まらずに二人ともさらに上へと上がって行く。
屋敷の中は豪華であったはずだが、今は見る影もなく、ほこりと蜘蛛の巣で覆われ、荒れ果てた廃墟のようだ。
まるで何十年も見捨てられてきた屋敷のようだ。アルドゥール はそう思う。
「この屋敷がこんなに 荒れ果ててているのは、本当に闇の月の女神の神官のせいなのか。僕は他に考えられないが。お前はどう思う?」
「さあな、他に原因が考えられなきゃ、そうなんじゃないか」
素っ気ない言い方だが、その通りだと思う。他に何か原因があるとは思えない。
「外にいた大蛇は? それについてはどう思う?」
「神魔界から呼び出されたかな」
神界とは光の側の神々が住む世界で、神魔界は闇の神々が暮らす世界だ。少なくとも人間は、そのような区別をしているのである。
「いいや、あれはこの世界にいる生き物だ。大抵は人里離れた丘や森にいて、人間の暮らす土地には現れないはずだ」
「へえ。どうやって運んで来たんだろうな」
「僕は冗談で言ったが、ヘンダーランが飼っていたのかも知れない。何かの目的のために」
「目的? まさかあんなもんが番犬になるのか?」
今度はリーシアンが冗談で言ったが、ネフィアル神官の青年は笑いはしなかった。
階段を上り終えた。二階に着いた。
続く
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