外国人にワクワク楽しく働いてもらう為に (10) 安全欲求 ③「キャリアプラン」
このnoteでは、外国人労働者の受け入れを検討されている中小企業の皆様が、外国人労働者に働きがいを感じてもらいながら生き生き働いてもらえるような環境を作る為のお手伝いをさせて頂いています。
前回は、外国人労働者を受け入れる企業側での具体的な対策の全体像の内、安全欲求のその②として 「医療と健康保険」 について説明させて頂きました。
今回は、安全欲求のその③として「キャリアプラン」についてご説明します。
「キャリアプラン」は安全欲求なのか?
そもそも「キャリアプラン」って安全欲求に該当するのか?って思われる読者の方もおられると思いますので、まずは何故私がキャリアプランを安全欲求の一部だと分類したのか、についてお話します。
日本に働きに来てくれる外国人労働者、特にアジア圏から技能実習制度(後の育成就労制度)や特定技能制度を使って日本に来てくれる外国人労働者のほとんどは、母国での来日前の日本語教育や就職先の斡旋の為に数十万円の費用を、家族が借金した上で送り出し機関や場合によってはブローカーに払って来日しています(なんだか当たり前のように書いてしまいましたが、実はこれが大きな問題です。この点については別途ご説明します)。
ですので、こうした外国人労働者は、来日後に受け入れ企業での勤務で得られる給与や賞与からまずこの借金分を返済して、その上で更に生活費を節約して本国のご家族へ仕送り分の送金をしなければなりません。もし、この来日前の借金をある程度の期間で返済出来るような目途が立たないとしたら、彼らはどのように感じるでしょうか?そうです、当然別の職場を探して失踪しなきゃ家族に迷惑をかけてしまう!という考えが浮かぶこともあり得ると思います。
つまり、彼らにとっては一定期間のキャリアプランが見通せて、当初の3年或いは5年の日本滞在期間内にどれ位の蓄えや送金が出来そうか、更に滞在を延長できればどれだけの蓄えが出来そうかということが分からないことが、そもそも借金までして日本に来たことの意味を覆しかねない大問題なんです。こうした心情を考えて、この「キャリアプラン」を、経済的にも安定して安心して働きたいという欲求である安全欲求に分類しました。
人によって違う「キャリアプラン」を理解した上で採用する事が大事
ただ、キャリアプランは人によってそれぞれです。例えば、「当初の3年或いは5年の間に稼ぐだけ稼いだら母国に帰国して、日本で稼いだお金を元手にして自分でビジネスをやりたい」という方もいるでしょうし、「安全な日本の企業で認めてもらえるように頑張って、家族を母国から呼び寄せたいし、ゆくゆくは日本の永住許可を取りたい」という方もおられるでしょう。ですので、まず採用の段階でその人のキャリアプランがどういったものなのかをしっかり理解して、御社が目指す人材戦略と合致する方を採用することがとても重要です。
「キャリアプラン」を実現する為の支援が他社との差別化要素
そうした外国人労働者のキャリアプランをしっかり把握した上で採用できたとしたら、受け入れ側としては当然そのキャリアプランの実現を支援することが必要となります。特に、長く日本に滞在したいという希望がある場合には、残念ながら育成就労にせよ、特定技能1号にせよ、各々単独では日本に滞在できる期間は限定されていますので、育成就労(最長3年)から特定技能1号、特定技能1号(最長5年)から特定技能2号へとキャリアアップしてく必要があります(注:特定技能1号を受入れ可能な特定産業分野は現在12分野、そのうち特定技能2号を受入れ可能なのは介護を除いた11分野です)。
そして、特定技能2号になれた場合には、家族帯同(配偶者と子)が可能となりますし、在留期間の更新を受ければ上限なく滞在可能になります。そして、特定技能2号として10年間滞在すれば、永住許可申請の要件の一つである10年滞在を満たすことになります(他にも条件がありますので、詳細はっ下記法務省のホームページの説明を参照ください)。
そうしたキャリアアップの過程では、日本語検定試験で合格することも必要になりますし、特定技能では各々の分野の技能試験に合格する必要もありますので、長期間の滞在を支援したい場合には、受け入れ企業としてその分野の技能試験対策を会社を上げて行うということも非常に有効な支援だと考えます。特に特定技能2号の試験では、企業でのマネージャー経験何年といった一定の実務経験の証明が受験資格となりますので、受け入れ企業側の協力が必須です。そうした協力を会社ぐるみで行うことを事前に約束できれば、長期間日本で働くことを希望する外国人労働者には大きな魅力となること間違いありません。
「キャリアプラン」支援策はエンゲージメント向上策として日本人の若手にも有効!?
実は私の前職で、人的資本経営の一環として昨今注目されているエンゲージメント調査とその向上策というものに関わるチャンスがありました。その際に印象的だったのは、日本企業の従業員は海外企業の従業員に比べて全般に会社へのエンゲージメントが低いということと、その一つの理由として、その会社での勤務を続けることで自らが成長できる確信が持てない、キャリアプランが見通せないことが挙げられていた事でした。世間で最近増えていると言われる入社したばかりの新入社員の離職理由にも同様の理由が挙げられていますので、自らのキャリアを早くから意識してそれを実現したいという想いは日本の若者の常識になっているんだと考えます。だとすると、上記でご提案したような外国人労働者への支援としてのキャリアプラン支援の為の施策をうまく日本人若手社員の皆さんの技術向上やキャリアアップにも役立つものにできれば、日本人の若手社員の皆さんのエンゲージメント向上につながるかも知れませんね。
その道のプロと呼ばれるようになるにはどの程度の期間その仕事に従事する必要があると思いますか?
最後に、このキャリアアップの支援を考える場合に、是非覚えておいて頂きたい点があります。以前ミャンマーで人事部を担当していた時に見た記事なのですが、「あなたはその道のプロと呼ばれるようになるにはどの程度の期間その仕事に従事する必要があると思いますか?」というアンケートに対して、ミャンマーの20代の若者が答えた最も多い回答は「3カ月」で、次が「6カ月」でした。全ての外国人労働者がそうだとは思いませんが、日本人の我々おじさんが考える「石の上にも三年」なんて全く分かってもらえない世界なんだとということは理解した上で、如何にテンポよく(「3カ月」は無理でも)長くても「一年」単位で成長を実感できるような指導とそれを認定する制度があると、やる気を失わずに努力し続けられるんではないかなと思います。実際、ミャンマーでの事業でも3年経っても昇進できないことにしびれを切らして転職していったスタッフもいました。(蛇足ながら、もしかすると日本人新入社員の皆さんの早期退職理由も同様の「時間の感覚」に起因しているのかも知れませんね)。
以上、外国人労働者受け入れに当たって、何か一つでも皆さんの参考になる点があれば望外の幸せです。もしご質問等あれば遠慮なくお問い合わせ下さい。
本投稿が今年最後の投稿となります。今年始めたばかりの慣れない投稿であったにもかかわらず、ご愛読ありがとうございました。来年が皆様にとって幸せな1年になりますようにお祈りしております。
変更履歴
初版公開 2024年12月27日