
かすみを食べて生きる 41 :見えないものを見ようとして
脳梗塞 発症1か月と8日目:リハビリ病院18日目
・食事:脳梗塞(ワレンベルグ症候群)の後遺症のため、嚥下ができなくなり訓練中。食事は鼻からの経管栄養。水分はスプーンの半分程度を一度に10口まで飲むことが許されている。
・状態:歩けるようになってきた。終日、館内フリー歩行自立。階段は上り下りでめまいがする。
・嚥下:嚥下訓練中。首を左に向ければ1~2mlの水を飲み込める。
食事訓練をかけた嚥下造影検査まで、あと3日。
わかりにくい変化を見たいときは、ひとまず何かでものさしを作ってみたりする。
『かすみを食べて生きる序文と目次』
<発症1か月と7日目:リハビリ病院1か月目⑰
発症1か月と9日目:リハビリ病院1か月目⑲>
見えないものを見ようとして
嚥下訓練は変化がわかりにくい。
前よりは飲めるようになった、気がする、という感じ。
歩けるようになったり、めまいがなくなってきた、と感じるようなわかりやすい変化がなく、外からもわかりにくい。
うーん困った。
できればわかりやすい指標がほしい。
よし、測ろう。
今私はスプーン半分およそ1mlの水分を一度に10口飲むことが許されている。
この10回をできるだけ条件をそろえて行い、1回1回の飲み込みの出来を自分で評価してみる。
むせこむことなく、のどへの残留感もなくすっきり飲めたと感じたら〇。
むせたり、むせた時に水分を吐き出してしまったりしたら×。
それ以外の微妙な場合はノーマーク。
これで10回の飲み込みのうち〇が何回出るかを記録していく。
この日私は午前と午後に10口チャレンジを行った。
午前は10回中〇は5回。まずまずの確度。
午後は10回中〇は2.5回。午後は疲れが出てきたからか確度が落ちた。
これをしばらく続けて、変化を見てみよう。

「お若いですね」
リハビリの担当がお休みの時に代打で入ってくれるセラピストさん。
その中の何人かに言われて衝撃を受けた言葉がある。
「お若いですね」
最初に言われた時は驚いて何も言えなかった。
私は40代だが、それまでの生活で「お若いですね」と言われたことがなかった。
セラピストさんたちはカルテを見ているので、私の年齢を知っている。
私が若くないことを知っている。
「お若いですね」は「もう若くはないけどがんばってますね」ということになる。
言われる側になるまで気づかなかった。
これは結構残酷な言葉ではなかろうか。
普段接する他の患者さんと比べて若いという事実を言っているのだろうか。
確かに周りの患者さんと比べると若いけど、それは言われなくても周りを見ればわかる。
社交辞令で年齢の割に若く見えると言ってるのかもしれない。
でも年齢と見た目で人をジャッジするのはよくない。
あぁ、私自身も年配の方に言ってきたな。
そもそも「若い」ことがよいことだという価値観も押しつけだ。
40代は若くないかもしれないけど、それなりにおもしろい。
初めての気づきにショックを受けて、私の中で様々なツッコミが飛び交ったけれど、その場ではうまく言語化できなかった。
何度か言われるうちにこのショックをお伝えした方がいいかもしれないとも思ったけど、うっかり口にすると説教になって「中年女性めんどくさい」となって、セラピストさんの仕事への意欲を削いでしまってもいけない。
「ふふふ、そうですかね」
と能面のような顔で曖昧な返事をして流した。
ガリガリチャレンジ#6
絶賛嚥下訓練中の私が、氷菓子を口に入れて味わいそっと口から出して(貴族食べ)、ガリガリ君の当たりを狙うコーナー。

いざ!

ぐぬぬ。
ーー振り返って
急性期の病院でも嚥下自主練の記録は書いていたのですが、確度を意識し始めたのは今回の1回ごとの評価を自分でするようになってからでした。
この記録は毎日言語聴覚士の下浦さん(仮)にも見てもらって、アドバイスをもらっていました。
「お若いですね」はびっくりしました。
高齢の患者さんが多いリハビリ病院では挨拶のようなものかもしれませんが、初めて言われた言葉でその意味を考えこんでしまいました。
勉強になりました。
もしかして少し前の世代だと誉め言葉になるのかもと思いましたが、他の患者さんがセラピストさんに「お若いですね」と言われているシーンを見かけた際、「何言っとんねん、もう90超えてるわ」とツッコまれていました。
使い勝手が難しい言葉なのかもしれません。
「お若いですね」よりやってることや変化をほめてもらえる方がうれしかったです。
「自主練がんばってますね!」
「歩行器なしで歩けるようになったんですね!」
「水分とれるようになったんですね!」
担当以外のセラピストさんにも廊下やリハビリ室でお会いした際に、たくさんほめてもらいました。
リハビリのやる気につながりました。
ガリガリ君の当たりって、もしかして都市伝説なのかな。