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感想文: LINE(ウェブトゥーン)『再婚承認を要求します』について

『再婚承認を要求します』のあらすじ

ナビエという名前の皇后が、愛するはずの皇帝に裏切られ、新たな人生を切り開こうとする物語です。

○物語の始まり

ナビエは幼少の頃から皇后になるべく教育を受け、皇帝ソビエシュとの政略結婚を果たした。完璧な皇后として周囲から慕われていたナビエだが、ソビエシュが狩りの途中で出会った奴隷出身のラスタを寵愛し始め、彼女の生活は一変します。

○変化

ラスタはソビエシュの心を独占し、皇后の座を狙い始める。ナビエは愛するはずの夫に裏切られ、深い悲しみと絶望を感じる。しかし、そんな彼女のもとに謎の王子からの手紙が届き、希望の光を見出す。文通を通して心を通わせた王子は、ナビエの心を癒し、新たな道へと導いてくれる。

○再婚への決意

愛を失ったナビエは、皇后の座に執着する意味を見出せなくなり、離婚を決意する。そして、隣国の皇后になるために再婚の承認を要求する。周囲の反対を押し切り、自らの幸せを掴むため、ナビエは新たな人生への一歩を踏み出す。


作作者: SUMPUL
ジャンル: ロマンス、ファンタジー
メディア: 漫画、小説

この物語は、皇后ナビエと奴隷出身の少女ラスタを中心に描かれた物語だ。この話はナビエ側からの視点が多いため、ついついナビエに共感するが、私は「人間の弱さ、未熟さ、不完全さ、身分制社会の考え方、感情に敏感な部分」をきちんと登場人物を通じて描いた物語だと感じる。この作品の主要登場人物であるラスタとナビエには、私自身が共感する部分が多い。

まず、ラスタは奴隷として貴族に見下され、苛められる立場から、突然、皇帝に寵愛される側に変わった。

皇帝に見いだされた彼女は、周囲を「見下す」立場を手に入れた、その地位が「皇帝の感情次第」で非常に脆いものであることを理解した。

ラスタの感情表現は豊かで魅力的だ。だからこそ、皇帝に愛された。しかし、人の機微を読み取る部分で、まだ感情が未発達で子供のような幼さを残したまま、成長した部分がある。

知識がなく、自分の立場や相手の気持ちを正確に観察したり、考えたりができない点は、「身分制」の下に産まれた弊害だと感じる。

身分制で彼女は十分な知識を得られなかったため、周囲(貴族)に対して劣等感を抱き、それでも必死で自分の立場を守ろうと懸命に奮闘する姿には共感する。

自分に都合が良い考えや言葉だけを信じる部分や、強い不安やフラストレーション、周囲からの軽蔑を敏感に感じる、ラスタの姿は、私自身の不安や、他者に対する疑念と重なる部分がある。

彼女は、手に入れた地位に浮かれてしまったことや、すごく人の機微には敏いが知識が足りない部分で、きちんと「勉強」して積み上げることが出来ない。

ラスタの場合は、人間の幼さや、未熟さ、謙虚さがないという負の部分が、これでもかと詰め込まれて描かれる。ひどく人間らしい、自らに都合が悪いことを見られず、自分の基準で判断してしまう部分や、相手の立場や気持ちを理解できない部分は、きっと、何かのきっかけがあれば、気づけるはずだ。

私は、彼女が他人だから、漫画だから、気持ちが推察が出来るが、己自身ならばそれが出来ないだろう。

一方の皇后ナビエは、かつてラスタのような素直さを持っていた。しかし、皇后としての役割を果たさねばならず、「自分らしさ」や「感情表現そのもの」を「周りへの影響や、周りからの視線」を考え、抑えるようになった。

彼女は「皇后」や「誰かの妻」としての役割を忠実に遂行する一方で、率直に「ナビエ個人」としての感情を表現を抑える。

常に「役割」にとらわれ、役割で物事を考えるので、夫婦関係もさらに難しくなっている。

「本当の自分」の出し方がわからない不器用さや、周りから傷つけられないための精神的な自己防衛なんだろうと感じる。

ナビエの目線が強く見られ、漫画を通じて、ナビエに寄り添うと悲しいなと感じる。

また、皇帝がなぜ「ラスタ」を求めたのかをわからなくなってしまったのも、「役割的な思考」や「教育」から来る弊害で、悲しい。

ナビエの考えは堪え忍ぶという姿は読み取れる。

それは「人間として、変わってしまった」ということで、理解が出来ない部分がある。

率直に感想や感情を知りたい相手の場合は、ナビエは冷たいと感じる。きっと、「堪え忍ぶ、我慢する」が社会の風潮にあるから、ナビエに共感する声がコメント欄に多いのかなと感じる。

ナビエも「自分の様子」が、親しい人からの見え方なんて忘れてしまうものだ。

客観的に自己を見られず、相手の気持ちがわからないのは、ナビエ自身が「必死に役割」を演じているためで、それをはずせない環境だからだ。


皇帝ソビエシュは、ナビエに対して「昔のあどけない彼女」を求め続け、彼女がなぜ「役割」から逃れられないかを理解が出来ていない。ナビエと皇帝は「周りからの視線や声」の感じ方が違うのかもしれない。

もともと、皇帝は周りの視線を気にしない面があるのかも。だから、妻の気持ちや現実を理解が出来ないし、理解しようとしていない。

己の欲望に忠実なのに、ナビエにだけ「清純さ」と、「操を守れ」とは、すごく不快だなと感じる。これは、私が今のジェンダーバイアスで「男性が優位」の中で育った、女だからかもしれない。

独占欲が強く身勝手。だが、「男性社会で求められる男性」らしい

彼が「ラスタ」を側室として、皇居に迎えたのは、ナビエの過去の様子をラスタに重ねたのかなと考える。

しかし、ナビエを本当に理解するためには、対話を通じてお互いの気持ちを伝えることが重要だ。

皇帝ソビエシュが自分本位な視点に留まっている限り、ナビエの本当の気持ちを理解することは難しいだろうと思う。

この作品は、個人の内面、社会的役割のバランス、そして相互理解の重要性を描き、登場人物たちがそれぞれの役割ゆえに苦しみ、内心ですごく求めるものがあるのにそれを率直に言葉に出来ない、あるいは気づかない部分が非常に印象的だ。

私は、彼ら1人1人の葛藤に強く共感しつつ、ついつい目が離せない

私の考えが浅いかもしれないが、夫婦は「どうして、すれ違ったのか」という過程がわかれば、苦しみをもう少し理解が出来るだろう。

ナビエと皇帝は、互いに長く一緒にいてお互いを理解しているつもりだが、そうじゃない。

2人の過程や歴史があり、すれ違った。

また、ラスタも、表面的にしか理解が出来ていない面と、生まれゆえの苦しみがある。なんというか、「相手に対する想像力」や「立場を理解する知識」がないと、互いに理解が難しい気がする。

また、ナビエ自身も、己の立場などが他人を傷つけている自覚がなく、そこは悲しい。

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