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【詩】天動説
真昼の暑さを拭い去る
夕べの風に誘われて
暮れなずむ空を見わたせば
あな 中秋の地平の果て
紅くかがやく満面が
雲のすき間に浮かんでいく
煌々と鏡に照らす街の灯は
闇の背中に沈んでゆく
地にすき通る鈴の声
疲れて眠る茂みの中で
硝子の翅を震わせている
無心に躍る 月の兎は
裸足の指で地軸を蹴って
丸い地球の回転移動を
白い軌跡で跳び越えていく
頭上に仰ぐ星空は
子午の座標を突きぬけて
確かな時を刻んでいく
如何に地球が傾いても
大地は果てもなく平たくて
山が剥れることもなく
海がこぼれ落ちることもない
渦巻く銀河の岸を見て
眼の届かない 無の広がりに
手さぐりするのは人だけだ
一心不乱に軌跡を追って
宇宙の起源をさがしている
親愛なる
コペルニクスよ ガリレイよ
虚空に描く円弧の歪みが
確かめようのない錯視の罠で
月夜の兎をなくしている
今宵 説き明かせない素直な謎に
汗で曇る レンズの螺旋が
冷たい風に 震えている
©2024 Hiroshi Kasumi
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