【詩】兆し
日が昇り、風は温み、凍えた指が弛緩する
声もなく梢が震え、芽吹きの気配が息を吐く
干乾びた、褐色の殻を、柔らかな鼓動の兆しが
ひき裂いて、沈黙の呪縛を解き放とうと
うごめき、密かな企てに疼いている
朝もやが、遠い山並みを包んでいる
川面を、雪解けのしぶきが駆けおりてくる
河口から、真潮の匂いが満ちてきた
冬鳥は、すでに旅立ちを終えて
冷たい大地は、脈の火照りを抱えている
萌芽を待つ幼な子が、産毛に汗を滾らせる
ためらいなく、剥き出しの素顔を晒すだろう
日の出は、日暮れを指さす入り口だ
怯えの覗くつぶらな瞳は、眩しさに、戸惑い
いつとも知れぬ滅びを、束の間、予感する
蔓延る草も、根を張る樹々も
地を這う虫も、空を舞う鳥たちも
限られた刻限を、限られた居場所で
与えられた自由に、逃れようもなく弄ばれる
草も樹も、生え出た土にしがみつき
花をめぐる蝶も蜂も、海を行き交う渡り鳥も
翅と翼を、風の流れにまかせるだけ
陽は熱く、大地は温もりに沸くだろう
吹く風は、甘美な調べを歌うだろう
天地に轟く雷の声
通り雨の土気の匂い
虹の弧が、明々と浮かんでいる
手応えなく、透きとおったむこう側で
得体の知れない胸騒ぎが、口を閉じたまま
押し寄せる熱狂を前触れしている
©2023 Hiroshi Kasumi
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。