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【詩】青い家

ふたつの線路が合流する
三角形の先端の土地
こんもりと盛り上がった
岬のような馬の背に
ちいさな家が立っている
 
はじめに、詩人が住んでいた
詩人は空にあこがれていた
壁も扉も、空の青で塗りつぶして
空に透きとおる詩を書いた
もっと大きな空を求めて
遠い高原へうつっていった
玄関に、青い言葉が記されていた
 
次に、画家が住んでいた
青い言葉を部屋に飾った
透きとおる絵の具で、窓のガラスに
きよらかな風の色を描いた
やがて、見たことのない光をさがして
異国の街へ旅立った
風にさそわれて、青い鳥が飛んできた
 
新婚夫婦が暮らしていた
青い鳥が啼いていた
きよらかな土に、種を植えて
朝のテーブルを季節で満たした
ふたりは、ちいさな命を授かり
どこかの野原へ渡っていった
窓の外に、青い庭が残されていた
 
若い音楽家が住んでいた
青い庭を手入れした
花と蝶々にかこまれて
気の向くままに、歌を奏でた
やがて、新しいリズムをみつけて
次の舞台を目指していった
家の壁に、青い楽譜が刻まれていた
 
大学生が住んでいた
青い楽譜を楽しく歌った
気の向くままに、羽目を外して
思索に惑い、論理に遊んだ
何の迷いもなく
広い海原へ巣立っていった
部屋のすみに、青い机がおかれていた
 
最後に、小説家が住んでいた
青い机が気に入った
思索の波に、漂いながら
ファンタジーを書きあげた
書き終えると
途方もない夢を、追いかけて
どこへともなく姿を消した
台所に、青いペンが残されていた
 
住む人は、いなくなった
青い家は古びていった
壁はほころび、屋根は朽ちている
戸は破れ、破風は錆びてうなだれている
誰も振り向こうとしない青い家
 
陽が昇るとき
青い庭に、青い鳥が啼いている
陽があがると
青い言葉が、青い楽譜を歌っている
陽が沈むころ
青い机で、青いペンが走っている
 
住む人のない青い家は
線路のゆくえをみつめている
オレンジ色の電車の音が
繰り返し、レールを叩いて
大急ぎで、すり抜けてゆく
家の青さは、褪せてしまった
けれど、取り残された記憶の海に
静かな鼓動が、聞こえてくる
放りこんだ、想いのつぶてが
青々と、波紋を、ひろげていく
ちいさな家は、ただじっと黙って
明日もなく、たちつくしている


©2022  Hiroshi Kasumi

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加澄ひろし|走る詩人
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。