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【詩】惨劇

春を待つ、小さな畑で
腰を曲げた婆さまが
危うげに、鍬を打っている
傍らの柿の木の枝の先で
一羽のジョウビタキが見守っている
何をかくすこともなく
何におびえることもなく
辛抱強く、待っている

やわらかく解された
畝にひらいた起伏の隙間で
生まれたばかりのミミズの子が
初めて見る、空の光にもがいている
ぬくもり始めた土の中で
目覚めたばかり、寝ぼけまなこで
ひなたの風にさらされた

白く重い鉄の刃が
からだを掠めて、振り降ろされた
天地を揺らす黒い影が
あたまの上を、ゆっくり遠ざかる
一瞬、翼の羽ばたきを聞いたかと思うと
冷ややかな嘴に摘ままれていた
生まれてまもない無垢の命
この世を儚む暇もなく
ただ餌食となって、潰えて逝った

とるに足らない惨事であった
あまたに繰り返される
晴れた日の山里の光景である

婆さまは、鍬を打っている
腰をかがめて、休み休み
ジョウビタキが、見守っている
悪意のない、つぶらな瞳で

©2023   Hiroshi Kasumi

◆今年の春先に書いた詩です◆

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加澄ひろし|走る詩人
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。