記事一覧
【創作小説】果ての羨望、六畳半にて(2)「独り占め」
「なんか眠そうってか隈酷いぞ、大丈夫か」
イマイチはっきりしない発語で講義の終わりを告げた教授の声と同時に席を立とうとしたところで、隣から肩を叩かれた。心配そうな顔をして覗き込む彼の視線に相手が誰か把握し損ねたのと同時に何の用事かこれから自分は食堂に行くんだと、同時に様々な思考が頭を這いずり回った挙句どれも曖昧に消えて行って、ひとまずこちらを覗き込んでいる金髪が友人である雨森だということはなん
【掌編ホラー】職人手作り★一点ものです★
あのぬいぐるみさ……何?そう、お前からこの間貰ったやつ。王道なテディベア。こんなうだつの上がらない生活してる中年にプレゼントするもんじゃないとは思ったけどさ、そこじゃない。いやありがたいとは思ってるよ、だって俺の誕生日祝ってくれる奴ってそういないから。兄さんでさえ忘れてたからね、俺の誕生日。別に日付変わるときにおめでとうって言って、贈り物してほしいわけじゃないけどさ。特別されると嬉しいってだけ。
もっとみる【創作小説】誑し込むには十二分(6)「還る道」
前作「かくしごと」の続きです。完結。
あれから二年が経って、何事もなく大学生活を過ごしている。無事に内定も貰って、あとは卒業に必要な単位を無事に取得するのみになった。つまり、俺が心霊スポットに不法侵入したのも、叔父が先輩を埋めたのも、咎められることなく平穏に過ごせていたということだ。相変わらず死体は降ってきたけれども、汚いものを見せられる以外実害はなく、叔父に連絡を取ったことはない。
初夏
【ホラー掌編】個性で済ませて
音ズレてたの気づいた?そう、まあわかるよね。うん、そりゃ俺も気を付けたいけどさ……あればっかりは俺にもどうしようもないんだよ。自分の指だったらさ、矯正のしようがあるんだけど。勝手に生えてくるんだよね、ライブ中に。あとはお菓子食べてるときもたまにある。たまに生えてきてさ、弦押さえるんだよ。
心当たりって言えばね、こないだ弟が死んだんだよ。事故だったんだけどさ。あいつもギターやりたがってたんだよ
自己紹介とかした方が良いんだろうか
つぶやきの機能を知った深夜テンション
【創作小説】誑し込むには十二分(4)「同じこと」
前作「誰にも言えない」の続きです。
「父さん、叔父さんの連絡先って知ってる?」
ちょっとした用事で電話をしてきた父に、切られる間際そう聞いてみた。急用があるわけではないけれども、俺と同じ――死体が見えるひとだったから、一応、何かしら繋がりを思っておきたいと、ふと思ったのだ。
「そりゃあるけど、お前あいつとそんな仲良かったっけ?」
「ちょっとね」
「男同士の秘密ってやつか?そういうのがある年頃
【創作小説】誑し込むには十二分(3)「誰にも言えない」
前作「落ちる、堕とされる」の続きです
酔って道端に落ちている人は良く見るが、死んでいるのを見るのは初めてだった。
死人は葬儀で見たことがある。あれは体裁を整えられていたのだなと、改めて実感した。驚いたように見開かれた両の目は白濁して、何かが見える状態ではないのに、こちらを見ているような気がした。焼き魚だとこんな感じだなとにべもないことを考える。棺の中で目を閉じられるのは、これを見せないため
【掌編ホラー】度を越えれば迷惑に
生徒職員その他諸々に人気のある同僚の国語教師はいつでも人が傍にいるような人たらしなのだけれども、たまに黒い影が隣に立っていたりだとか、肩口に長い髪が掛かっていたり、足元を青白い手に掴まれたりしていて、たまたま二人きりになったときに思い切って尋ねれば昔からなんだよと困った顔をするので、横から刺さる視線については今だけは不問にしようと思った。