古柳幽

創作小説|イラスト|夏と怪異 主にカクヨムで仄暗いものを書いています。

古柳幽

創作小説|イラスト|夏と怪異 主にカクヨムで仄暗いものを書いています。

マガジン

  • 【長編】果ての羨望、六畳半にて(連載中)

    大学生二人がぐだぐだしながら、たまに怖い目にあう話。

  • 短編ホラー

    短編ホラー集

  • 【中編】誑し込むには十二分(完結済み)

    夏の甥と叔父 ホラー/死体埋め グロテスク表現有

  • 短夜奇譚

    掌編小説集。 カクヨムにて投稿している「短夜奇譚」からお気に入りを抜粋。

最近の記事

【創作小説】果ての羨望、六畳半にて(2)「独り占め」

「なんか眠そうってか隈酷いぞ、大丈夫か」  イマイチはっきりしない発語で講義の終わりを告げた教授の声と同時に席を立とうとしたところで、隣から肩を叩かれた。心配そうな顔をして覗き込む彼の視線に相手が誰か把握し損ねたのと同時に何の用事かこれから自分は食堂に行くんだと、同時に様々な思考が頭を這いずり回った挙句どれも曖昧に消えて行って、ひとまずこちらを覗き込んでいる金髪が友人である雨森だということはなんとか把握しつつしばらく反応できずにいると、いよいよ不安げな顔でもう一度大丈夫かと

    • 【短編ホラー】残したものには※※がつく

      お盆に父の実家に帰った甥と迎え火をする叔父。  盆だからね、迎え火だよ。そのためにお前も帰ってきたんだろ。律儀だね、別に社会人になって一人暮らしする前はそんなに来なかったろ、盆はどこも混むからね。特に地方は。ここに来るまでも結構車居ただろう。だから俺はこの時期遠出しないんだ。実家住みの特権だね。毎年ちゃんとやってるけどね、兄さんはなかなか帰ってこないよな、ま、気持ちは分かるよ。俺だって東京出てた時は来たくなかったもの。ただでさえ遠いし。  それなりに力仕事あるからさ、まあ

      • 【短編ホラー】夢の話、残る痕

        いつも怪我をしている叔父に、原因を尋ねる甥。  夢でさあ……うん?そう、夢の話。  なんでいきなりって、関係あるからに決まってるだろ。お前が聞いてきたんじゃない、その痣と眼帯どうしたんですかって、ずけずけと……。いや、怒っちゃないよ。なんにも疚しいことなんかないし。聞かれたから答えてやろうと思って話してんのに遮るんだもん。……だから夢なんだよ、原因が。まあ、端的に言えばさ、こういう体質なんだよね。  血管が脆いとかそういう病的なやつじゃなくって……そりゃ健康体って言うの

        • 【短編ホラー】平年比+※※℃

          涼しげ怪異。  振りほどこうにもいつまでも触れてくるような熱気が全身にまとわりつく。逃げる余地のない汗が重力に負けて、項を、背中を伝う。用事があったとはいえ、丁度脳天を焼かれるような時間に外に出るものではなかったと心底後悔した。そもそも急ぎの用事ではない。それなら雨でもなんでも、少なくとも今日のように日差しの強くない日にすれば良かったと己の無計画さにうんざりする。  これ以上ブロック塀の続く道であまりにも人間に適さない温度に曝されるのは危険だと判断して、道から逸れ自分の住

        【創作小説】果ての羨望、六畳半にて(2)「独り占め」

        マガジン

        • 【長編】果ての羨望、六畳半にて(連載中)
          2本
        • 短編ホラー
          6本
        • 【中編】誑し込むには十二分(完結済み)
          6本
        • 短夜奇譚
          8本

        記事

          【創作小説】果ての羨望、六畳半にて(1)「執着、あるいは逃避」

          大学生二人がぐだぐだしながら、たまに怖い目にあう話。 新しく連載予定の長編です。気が向いたときに続きが出ます。  最低限の家具と本の詰まった六畳半は、西向きの大窓から入る斜陽で鮮やかな橙に染められている。  DVDプレーヤーが弱々しく唸り、テレビ画面にはおどろおどろしい画が映し出された。いつものように床に積み上げられた本を退かしてベッドを背に自分のスペースを確保すると、座卓の上にも積まれた本の隙間に埋もれていたリモコンを手に取る。酒を片手にキッチンから戻ってきた夜船に俺

          【創作小説】果ての羨望、六畳半にて(1)「執着、あるいは逃避」

          【短編ホラー】手懐け奪われ後始末

           入ってすぐ目についたのは机に置かれた木製の箱で、なんの装飾もないそれは、廃墟に置かれているにしてはやけに綺麗に見えた。 「な、あったろ」  振り返りざまほくろのある片方の口角を上げてそう言った先輩は躊躇うことなく土足でずかずかと奥まで入り込む。俺は玄関で逡巡してから、恐る恐る部屋へ上がった。蝶番が耳障りな高い音を立て、背後からの明かりが遮断される。暗がりに懐中電灯の明かりが揺れた。カーテンのない窓から入り込むべき月明かりは薄雲で覆い隠され、街灯の明かりがぼんやりと内装の

          【短編ホラー】手懐け奪われ後始末

          【短編ホラー】そしてあの人も居なくなる

           怖い話ですか。夏だからって安直すぎません?まあ、飲み会抜けて喫煙所に逃げ込んで暇ったらそうですけどね。  仕事できない上司の何遍聞いたか分かんない自慢話よりかマシですね、俺のが面白いかったら別ですけど。良いですよ、丁度いいのがあるんで。煙草二本分くらいにはなると思います。  カセット聞いてたら音が変になったり録音してないはずの怖めな音声が流れる、みたいな話って結構あるじゃないですか。CDでもなんでも良いんですけど、俺がこの間聞いたのはカセットテープでした。音って怖いです

          【短編ホラー】そしてあの人も居なくなる

          【掌編ホラー】職人手作り★一点ものです★

           あのぬいぐるみさ……何?そう、お前からこの間貰ったやつ。王道なテディベア。こんなうだつの上がらない生活してる中年にプレゼントするもんじゃないとは思ったけどさ、そこじゃない。いやありがたいとは思ってるよ、だって俺の誕生日祝ってくれる奴ってそういないから。兄さんでさえ忘れてたからね、俺の誕生日。別に日付変わるときにおめでとうって言って、贈り物してほしいわけじゃないけどさ。特別されると嬉しいってだけ。だから怒るなよ。その辺はさ、強いて言うなら通知音で起こされてムカついたってくらい

          【掌編ホラー】職人手作り★一点ものです★

          【創作小説】誑し込むには十二分(6)「還る道」

          前作「かくしごと」の続きです。完結。  あれから二年が経って、何事もなく大学生活を過ごしている。無事に内定も貰って、あとは卒業に必要な単位を無事に取得するのみになった。つまり、俺が心霊スポットに不法侵入したのも、叔父が先輩を埋めたのも、咎められることなく平穏に過ごせていたということだ。相変わらず死体は降ってきたけれども、汚いものを見せられる以外実害はなく、叔父に連絡を取ったことはない。  初夏のすでに夏らしさを呈する青空から熱を浴びせられている。肌寒かった朝の空気はどこへ

          【創作小説】誑し込むには十二分(6)「還る道」

          【ホラー掌編】個性で済ませて

           音ズレてたの気づいた?そう、まあわかるよね。うん、そりゃ俺も気を付けたいけどさ……あればっかりは俺にもどうしようもないんだよ。自分の指だったらさ、矯正のしようがあるんだけど。勝手に生えてくるんだよね、ライブ中に。あとはお菓子食べてるときもたまにある。たまに生えてきてさ、弦押さえるんだよ。  心当たりって言えばね、こないだ弟が死んだんだよ。事故だったんだけどさ。あいつもギターやりたがってたんだよね、たまに俺んち来て弄ってた。ちゃんと弾いたことはないんだけど、やり方はちょっと

          【ホラー掌編】個性で済ませて

          【創作小説】誑し込むには十二分(5)「かくしごと」

          前作「同じこと」の続きです。  果たして叔父は数コール後に電話を取った。いつも顔を合わせるときには、愛想笑いなのかどこか陰のある顔で笑っている彼から想像できないほど不機嫌な低い声で、俺は要件を伝えるのも忘れ、一瞬怯んでしまう。 「都会っ子は寝るのが遅いね、何時だと思ってるんだ。成人したからって夜更かしするもんじゃないよ」  叔父は寝られるときはちゃんと寝なさいと恐ろしく真っ当なことを宣って、それから用がないなら切るよと投げ出すように言った。俺はそれを慌てて止めて、組み立

          【創作小説】誑し込むには十二分(5)「かくしごと」

          自己紹介とかした方が良いんだろうか つぶやきの機能を知った深夜テンション

          自己紹介とかした方が良いんだろうか つぶやきの機能を知った深夜テンション

          【創作小説】誑し込むには十二分(4)「同じこと」

          前作「誰にも言えない」の続きです。 「父さん、叔父さんの連絡先って知ってる?」  ちょっとした用事で電話をしてきた父に、切られる間際そう聞いてみた。急用があるわけではないけれども、俺と同じ――死体が見えるひとだったから、一応、何かしら繋がりを思っておきたいと、ふと思ったのだ。 「そりゃあるけど、お前あいつとそんな仲良かったっけ?」 「ちょっとね」 「男同士の秘密ってやつか?そういうのがある年頃か」  なにを勘違いしたのか父は大仰に笑って、それから叔父の連絡先を教えてくれ

          【創作小説】誑し込むには十二分(4)「同じこと」

          【創作小説】誑し込むには十二分(3)「誰にも言えない」

          前作「落ちる、堕とされる」の続きです  酔って道端に落ちている人は良く見るが、死んでいるのを見るのは初めてだった。  死人は葬儀で見たことがある。あれは体裁を整えられていたのだなと、改めて実感した。驚いたように見開かれた両の目は白濁して、何かが見える状態ではないのに、こちらを見ているような気がした。焼き魚だとこんな感じだなとにべもないことを考える。棺の中で目を閉じられるのは、これを見せないためもあるのだろう。  夜を紛らわすネオンの張り巡らされたビルの谷間に落下したそれ

          【創作小説】誑し込むには十二分(3)「誰にも言えない」

          【創作小説】誑し込むには十二分(2)「落ちる、堕とされる」

          前作「死人に口なし」の続き。 ⚠️死体  目の前に、人間が落ちている。  道端で寝こけている酔っ払いではない。こんな、街灯もまばら、近くに何もない田舎道で、そんなことをする奴は居ない。少なくとも俺は、今までに見たことがない。  そもそもこれは、元々あったものではない――落ちてきた、のだろう。水風船が潰れるような音と共に。  高い建物などあるはずがない。何度も通った道だ。そんなものができたら気づく。工事中から、それ以前に計画中から、地域中で話題に上がる。そんなことは見な

          【創作小説】誑し込むには十二分(2)「落ちる、堕とされる」

          【掌編ホラー】度を越えれば迷惑に

           生徒職員その他諸々に人気のある同僚の国語教師はいつでも人が傍にいるような人たらしなのだけれども、たまに黒い影が隣に立っていたりだとか、肩口に長い髪が掛かっていたり、足元を青白い手に掴まれたりしていて、たまたま二人きりになったときに思い切って尋ねれば昔からなんだよと困った顔をするので、横から刺さる視線については今だけは不問にしようと思った。

          【掌編ホラー】度を越えれば迷惑に