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#連載小説
今日も、あのスタジオで待っています(5)
面談と言っても形式上行われているだけで、先生自身もそこまで大学入試に対しては豊富な知識を有しているわけではなかった。「君がそう言うなら、そろそろどこらへんのレベルの大学に行くかは決めたほうが良いじゃないかな。お母さんはどうですか?私立と国公立ではお金も違いますしね。」とありきたりの話をしていて、僕ら親子は話半分に聴いていた。「先生は○○大学なんだけどね、今の君ならあそこなら・・・」と自分との比較
もっとみる今でも、あのスタジオで待っています(4)
火がついたまま、加えたままのハイライトの灰が床に落ちる。煙は吸っていんだか吸っていないんだか。視線は目の前にある一冊の本と手元を行ったり来たりだった。僕は初めてのスコアーなるものを手に入れ、スティングレーはオブジェから日常生活必需品への試験を受けているところだった。タブ譜とはなんぞや。数学が得意だったので書いているとはわかった。そういえばロビー・ロバートソンがボブ・ディランに「数学的ギタリスト」
もっとみる今でも、あのスタジオで待ってます(3)
下山しながら考えていたのはもちろん彼女のことだ。と同時にギターケースの彼のことも頭をよぎる。僕の中で二人の共通性を言葉で言い表せるほどではなくも感じていた。この街の住人ではない可能性を醸し出していた部分。それはもちろんファッション的な部分もだが、それよりもこの街で育つことで得られる感性以外の“何か”がそこには存在した。確かに存在したがいい表せない感覚は、当たり前だが僕がこの街で育ったことを強く思
もっとみる今でも、あのスタジオで待っています(2)
期末試験の終わった日の午後、僕は自転車にまたがり街に出た。あの日以来あの山には行っていなかった。特に理由があるわけではなかった。と言うよりも今回はどちらかと言うと行きたい気持ちになった。比較的勉強に関してはちゃんとやっている方で試験もある程度できたのだけれども、今回はなぜか試験勉強中にベースのことが気になることがあった。もしかしたらまたあの人に会えるかもしれないという淡い気持ちがあった。あって何
もっとみる今でも、あのスタジオで待っています(1)
ベースを手に入れたのはたまたまだったし、特に望んでいたことではなかった。隣に住んでいた一回り上のお姉さんが結婚するとかで家をでるときに、「春馬くん、高校生だよね。これあげるよ。少しモテるかもよw」と半ば無理やり渡されたのがそのスティングレー(※注1)だった。
特に音楽が好きだったわけでもなく、だからと言ってスポーツをやっていたわけでもなかった。仲良い友達が特にいるわけでもなく、同級生でバンド