今日も、あのスタジオで待っています(5)

 面談と言っても形式上行われているだけで、先生自身もそこまで大学入試に対しては豊富な知識を有しているわけではなかった。「君がそう言うなら、そろそろどこらへんのレベルの大学に行くかは決めたほうが良いじゃないかな。お母さんはどうですか?私立と国公立ではお金も違いますしね。」とありきたりの話をしていて、僕ら親子は話半分に聴いていた。「先生は○○大学なんだけどね、今の君ならあそこなら・・・」と自分との比較を話してくれるぐらいでありがたいんだけどいまいち実感がわかないというか。「ま、君はあまり心配の対象ではないから、頑張ってね。」と言って面談は締めくくられた。母はパートに行くとかで校門で別れた。

 帰り道、同じクラスの片山と会った。今から友人の家に遊びに行くとかで方向が一緒だったので少し話をしながら歩いた。そんなに接点がある奴ではないが、バンドをやっていると噂の彼は比較的話しやすいタイプだった。なんとなく進路相談の話になり僕は聞かれるがままになんとなく大学に行きたい話とかをした。彼は音楽の専門にでもいきたいんだけど親が云々言っていた。ついでだから僕も質問をさせてもらった。
「俺さ、最近ベース始めたんだよね。お前さバンドやってんだよね?楽器なに?」
「ギターよ。え?知らなかった?この前の学園祭でも出てたんだけど。」
「お、おう。いや、出てたのは知ってたし、見たけど。そん時楽器の事とかわかんなかったからさ。」とバレバレの嘘をついたが、そんなことよりも自分に興味を持ってくれたことが少しうれしかったらしく、うんちくを語ってくれた。いつもなら面倒だなって思うところだったが、今日に限って最後まで話しを聞いてみた。中にはなるほどと思う発言もあり、「お前、流石だよな。俺とかまだ楽器触って1週間だから知らないことばっかりだよ。」とお世辞抜きで言った。今から遊びに行く場所はバンドメンバーの友人宅らしく、一緒に来ないか?と誘われたが、そこまで図々しいこと、いや面倒くさいことは避けたいなと思った。少しだけ行ってもいいとは思ったけど今日はやめて、途中で別れた。「今度音楽の話でもしようぜ、じゃな。」ああいうやつがバンドマンか、爽やかだが僕の方向性とはちょっと違うなと思った。

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