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日記/2024/11/14/だからぼくはLINEのログを消さない
LINEの会話ログを流し見していた。いまは疎遠になってしまった彼や、留学中に少しだけ仲良くしてくれた彼女とのログを見て懐かしく思った。何人かはLINEを削除してしまったようで、アイコンがグレーになっている。LINEはアカウントを消してもその人との会話ログは残る。それを見るたびに、なんだか同棲していた部屋がそのまま残っているようだなと思う。
ぼくには消せないログがある。それはある年上のお兄さんとのログだ。LGBTなんて単語がそもそも社会に浸透する前(いまでもほんとうの意味で浸透しているとは思えないが)人口4万人の街で知り合った。”初リアル”の相手でもあった。とにかくかっこよかった。ぼくはまだ10代だった。18にもなっていなかった。
同性愛者向けのSNSですらマトモなコミュニケーションをとれない自分とも仲良くしてくれた。彼は早々にぼくのやっかいさを見抜いてくれていたのだと思う。
彼とは何度か会った。何度も会ったと言ったほうがいい。上京してからも、東京に遊びに来るときは何かと気にかけくれた。上京という名なのに草加市に住むことになった自分を笑ってくれた。
彼はある日ぼくのLINEから消えた。ショックだった。相当ショックだった。親友とも違う、恋人とも違う、憧れの「先輩」を喪失した。寝込んだ。泣いた。立ち直るのに時間がかかった。
話を戻そう。昨晩ログを流し見していると違和感を感じた。グレーだったはずのアイコンがダックスフンドになっていた。名前もついている。LINEのシステムは詳しくない。もしかすると同じIDで再登録した人にアカウントが乗っ取られでもしたのかなと疑った。
恐る恐る連絡してみた。すぐに既読がついた。「ひさしぶりじゃん!」との返事があった。まだ信用できない。人違いだと失礼になるから、低姿勢でいくつかの質問を投げてみた。彼だった。嬉しかった。跳ねた。跳んだ。
それからたくさん話した。なぜ消えたのかなんて無粋な質問はしない。近況をぶつけ合った。詳しくは書かない。これは彼とぼくだけの秘密。
LGBTの連中は仲がいいと言われる。外から見ればそうかも知れない。ぼくは同意しかねる。身バレ上の都合から半匿名制での出会いがほとんどだ。だからいくら仲良くなったとはいえ、ある日突然ぼくの目の前から消えたりする。アプリに常駐しているうっとおしいおじさんですら、ある日突然姿を消す。そこには根を下ろした家族的な付き合いはなかなか生まれない。
そんな世界だから、長い付き合いができるとほんとうに嬉しい。幸いにも、彼のようにまたひょいと戻って来る人も、まあまあいる。そういう気楽さも、まぁ嫌いではない。
宿り木なんて大げさなものでなくていい。ずっとそこにある宿屋の婆さんみたいに、ただ「おかえり」と言いたいだけだ。だからぼくはログを消さない。姿を消した人が、いつかまた戻ってきたとき、迎えられなくなってしまうから。だからぼくはアカウントを消さない。たった一度しか会ったことのない誰かが、戻る場所を失くしてしまわないようにしたいだけだ。これからも、ずっとその先も。
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