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3239と0-1

リーグ中断期間前ラスト。年に2回しかない貴重なホーム戦世田谷開催となったこの日、クラブとして叩き出したこの2つの数字は大きく明暗を分けることになりました。

3239はその日の観客動員数。クラブ史上最多入場者数を記録し、運営サイドとしての現状のベストが出たのではないでしょうか。まず間違いなく言えることは、2020年に移籍してきたばかりの私に教えてあげたところで、まず絶対に信じないだけの数字ということです。

前所属先で想いを具現化できなかったこともあり、意気込んで移籍してきたわけですが、当時はピッチ外での活動の重要性を説いたところで、それが刺さる土壌はありませんでした。前クラブでの経験も手伝って、早急に戦い方を変えられたまではよかったのですが、コロナ禍も重なり、狙っていたところに辿り着けたのは翌シーズンでのこと。

その年も様々なところへ顔を出し、繋がりを増やしたり広げたりを繰り返していましたが、ことが大きく動いたのは2022年のこと。クラブMVV(ミッション、ヴィジョン、バリュー)を改定、地域に根差す活動が本格的に動き始めました。

大きな組織ではないので、全てが抜かりなくとまではいかないものの、中の様子が明らかに変化していく様子を見ながら、「もう無理して頑張らなくていいんだ」と、不意に思いました。もともと誰かに頼まれたわけでもないですし、勝手に動いてきたところで、なにかに繋がったかと言われるとそれも怪しいのですが、なんとなく肩の荷が降りた気持ちになっていたのです。

いつだったか、広報も兼任する川嶋コーチと一緒に、世田谷区区役所での打ち合わせに行った際の話です。他の部署でお世話になっている方に挨拶に行ったのですが、2023シーズンのホーム戦駒沢開催が決まったことを報告すると、まるで自分ごとのように一緒になって喜んでくださいました。これを見て「このクラブは本当に変わったな」と、乗るべき軌道に乗ったことを確信したので、今回の3239という数字は、ただ蒔いた種の通りに咲いたなという印象を受けています。(もちろんそこに至るまでのフロントやスポンサー企業様方のものすごい頑張りあってこそです。)

運営サイドとしては一旦出し尽くした一方で、ピッチレベルでも単純に蒔いた通りにしか咲かなかったのか、そもそも種蒔きすらも十分ではなかったのか。こちらは少し足りない数字、結果として終わりを迎えることになりました。

こちらも少し振り返ってみましょう。リーグでの戦績をみると、私にとって初めてのシーズンとなった2020年はなでしこリーグ2部優勝。昇格を果たした初年度は準優勝ながら、翌年では念願の優勝を決めているので、その結果だけをみると順調にチームとしての成長を遂げているようにみえます。

リーグでの戦いから少し視点をずらし、皇后杯での戦いに着目すると、前3大会でのいづれも格上との戦いに敗れて大会を終了しています。2020年当時はWEリーグの発足前でしたので、なでしこ一部リーグクラブであった、マイナビベガルタ仙台レディースとの一戦。最終的には敗れてしまったものの、「スフィーダらしさを爆発させて追いつき、よく120分フルを戦い切った」そういう印象を抱く試合でした。

翌年からはプロクラブを相手にする初めての戦いとなりましたが、足らない部分は絶対的に存在していたとはいえ、「今日のスフィーダのサッカーには心を動かされた」私以上に長い年月をクラブと共に過ごしてきたサポーターの方に、そう言っていただけるようなサッカーをやり切りました。

そして、満を辞してかのような昨年の皇后杯。個人として初めてピッチに立てなかったというのもあるかと思いますが、一番呆気ない終わり方だったというか、「スフィーダらしく、いつも通り」の限界が徐々に可視化されてきたと感じていました。

そして、今年のリーグ戦。連覇の難しさを身を持って体感していく年となります。「スフィーダのサッカーだな」と感じるスタイルも増え、まるで自分自身と戦うようなやりづらさを感じる中で、相次ぐ怪我による長期離脱。

よくも悪くもシンプルな集団なので、なにが上手く回っていないかなどの課題は常に明確でしたし、単に繰り返し続けている自覚もありました。ただ、見えてはいても、それを実際に変化に結びつけていくにはとても大きなエネルギーが必要です。スタッフがどうにかしてくれ、自分のことで忙しい。もしかしたら、いつか勝手に事態が好転していくという絵空事ごとさえも信じ込もうとしていたのかもしれません。

0-1での敗戦直後の様子をみていた友人が「せりなはもうずっと前に泣いてたよね」という一言をかけてくれました。応援してくださっているみなさんには本当に申し訳ないのですが、「まあそうだよね」くらいに正直思っていたのが、その一言を聞いた瞬間、「自分もやっぱり足らんかったよな、逃げとったな」と、後悔しました。

自分たちが目指すべきイメージのすり合わせに、そこからの中期・短期的プランの計画、その中での役割分担など、考えるべきことはそこそこにあるものの、必要なタレントは既に揃っています。

スフィーダ1期生にして、現在はトップチームコーチとして活躍している川嶋コーチはスフィーダフットボールのエキスパート。サッカー小僧と揶揄される私と同じ熱量でサッカーについて語れる人でもあり、きっとその勢いを持って、今までのスフィーダをただ思い出す以上のところまで連れて行ってくれることでしょう。

そして、そんな川嶋コーチとは少し対極的な立ち位置に立つのが神川監督。様々なカテゴリーの指導をされているので、ちょっとお子ちゃま気質なスフィーダっ子たちへの対応にも適応できると思います。また、選手に止まらず、指導者の育成にも携われている方ですので、川嶋コーチを筆頭とした勢いの方向性を必要に応じてテコ入れしてくださることでしょう。

選手兼キーパーコーチである星さんもついにチームに合流してきますし、そのユニークな立ち位置や豊富な経験を活かし、彼女だからこそできる仕事を、今度は自身もピッチに立ちながら遂行できることになります。特に若い選手たちにとっては彼女から学ぶことが多分にあると思います。

動かせることにはすでに着手してはいるものの、実際にどこまで落とし込めるかというところはやりながらのトライアンドエラーの繰り返しなので、とりあえずやってみないとな部分はあります。それでも「スフィーダだから大丈夫」と、私にしては珍しく根拠のない自信を持っています。

少しプライベートな話になってしまいますが、今シーズンの愛媛戦での出来事です。普段はサッカーとプライベートはきっちり分けていますし、どんなことがあってもスイッチを切り替えることに絶対的な自信を持っていたのですが、その日だけはそれができませんでした。朝起きてからの散歩中もずっと頭の中はぐしゃぐしゃで、とうとう出発時刻となり、そのままの頭でバスに乗り込んでしまいました。

気を紛らわせとうと、珍しく周りと騒いでいたことはなんとなく記憶しています。ひと段落して自分の時間となり、ふいにTwitterを開いたときです。チームの公式アカウントから、私のイメージを使った告知ツイートがあがってきました。それを目にした瞬間、一気にスイッチが切り替わったのを感じました。

結局その試合では先制のチャンスとなるPKは外してしまうのですが、珍しくその後を引っ張ることなく、最低限のパフォーマンスを出せたと思いますが、それもこの発信がなければどうなっていたかはわかりません。

私が運営についてあれこれ考えるときは、あえて強化面と切り離して考えるようにしています。試合で勝った負けたというような事象の一つ一つに左右される運営になってしまうことを避けるためです。それがこの日、運営側からの動きに現場の人間として心動かされた瞬間、「このクラブはもう、本当に大丈夫」と、心の底から感じたのです。

外から見える景色はまた違うので、特に今シーズンは物足りなさはもちろん、もしかしたら不安に近い感情をも与えてしまっているかもしれませんが、このチームはいま、本当に意味のある時間を過ごしていると思っています。だから、あとはチームとしての大枠を整え、その中での個と個の化学反応を引き起こしていくだけです。

クセの塊であるスフィーダを、これまたクセの強い川嶋コーチが引っ張り、神川さんが必要に応じてそのリードを引っ張る。これ以上にないくらいにバランス取れた構成だと思うんですけどね。チャンスはそう何度もやってくるものではないかもしれないけど、準備ができている人のもとにはやってくる。

さあ、スフィーダにしか描けないストーリーを描いていこう。今日がそのスタート。


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