『本買い』と『つんどく』の気持ち
引越しを機に、持っていた本を半分くらい売ってしまった。
実家に残していると邪魔になる(と言われた)し、引越し先に持っていくには少々多すぎる。あと、確かにまあ、半分くらいの蔵書は、これから読み直す機会はあまりないかもしれない。
小学校時代からコツコツと集めていたマンガと小説ではあったが、思い切って、売ってしまったのだ。
そして一人暮らし先に持ってきたのは、残り半分の内の五分の一くらい。大体本棚一つ分。余白がないので、なるべく今の家では本を買わないようにしている。
電子書籍が広がってる昨今、そっちで買えば良いと思わなくはない。保存も楽だし、場所も取らない。何より、手軽に買うことができる。
でも、選ぶとすると紙の本を選んでしまう。特に自分の好みの本であればあるほど、紙で買いたい。現物として残しておきたいという欲求がある。
昔、司書を目指していた理由の一つに、「本に囲まれているのが好き」というものがあった。
図書館の蔵書は、大半は読めない。量が多いし、専門書もたくさんある。読めても、興味がない分野のものもある。そこらへん私は乱読ではない(それが悔しくもある)。ただ、そんな読まない本でも、とにかく、分類順でずらっと並んでいる書架を見ていると、そしてその中に身を置いていると、じんわりと心が落ち着くのだ。大学図書館でバイトしていたときは、本当に幸せだった。
だから、そういう、幸せで個人的心豊かな生活を演出するための行為としての購買であると、そのようにこの欲求を解釈できるかもしれない。
要するに、何を言いたいかというと、買わないとは言っても結局本は少しずつ増えていくのだ。すでに家の本棚をはみ出している始末。
最初は、仕事の休憩時に読むための本を、近くの図書館で借りていた。図書館で借りるという発想になったのが久々だったので、借りて返しての移動がちょっと面倒くさいかもなあ、なんて思っていたけど、やってみればビバ公共施設。市の図書館の書庫は共通で使え、遠くの図書館にある本を最寄り図書館まで取り寄せることも、そこで返すこともできる。待ち時間もあまりない。発売直近の新刊はそうもいかないが。
しばらくはそうやって楽しんでいた……はずだった。
おやおや、と気付けば本は家に増えていく。先にも触れたように、自分で集めておきたい本は買ってしまうから。幸せを追い求めてしまうから。あと、マンガはさすがに図書館にないし。
今はまだ散らかるほどにはないが、後々が怖い。
ただ、そうやって買った本を読まない。
小説はまだ読む。文庫サイズのものは。仕事に持っていきやすいし。ノベルスもまあ。でも、それ以上のサイズの小説やマンガは、読まないで本棚の上に置いてある。ビニールカバーを取ってもいない。読んで感想をSNSにあげるなりすれば良いのに、寝かしてしまうのだ。
どうしてなんだろうと考えて、二つほど出てきた。
一つ、読むと次の展開が待ち遠しくなる。
一つ、いつでも読めるという安心感。
私は読み始めると没頭してしまう性質だ。実家にあった父のマンガなり小説は、シリーズが完結しているものがほぼだったので、一度読み始めると一気に最後まで読めてしまうことが大きかったかもしれない。続きへの欲求をすぐに解消できたのである。
翻って現在。昔よりはかなり治まったとはいえ、新刊が出て、帰ってすぐにホクホクと読んでしまうと、それからしばらく続きが気になって悶々としてしまう。マンガは基本は単行本派で、あと最近は月刊誌の作品ばかり読んでいるから、次が出るのが一年後とか、ざら。これが辛い。さらに小説なんて言えば、よっぽど多作の人じゃなければ、新作が出るのがいつになるやらわからない。
だから、買って読まずに置いておく。
もう一つの方は、「本に囲まれているのが好き」とちょっと方向性が似ている。あっちは読まない本も含めての話で、こっちは読む本に関して、というか。
本を置いておくということは、つまり手に取れる場所にあっていつなんどきでも気が向いたときに読めるということ。日常生活に本を読む時間はあるが、その時間を別のことに使うこともできる。今、正に、その本を読まなくてはならない、という確固とした制約はないわけだ。であるなら、その行為を取っておいて、より最善と思える時に読めば良い。読むための本に囲まれて、いつでも読めるという権利を敢えて行使せず、「こっちはいつでも読めるんだぜ」という優越感に浸る。心が落ち着くのである。
言葉にしてみたら割とあこぎな感情だった。
もう少しかみ砕いて言うと、真夏のすっごく暑い日にビールなり炭酸飲料なりシュワシュワしたものを飲みたい、飲むぞ、俺は飲むんだ、という気持ちをぐっとこらえてまず熱い風呂に浸かっている感覚。
あとはまあ、本当に何もすることがなくなったときに選べる娯楽をとっておいてる、とも言えるかもしれない。
とまあこんな感じで、私の『つんどく』は順調に溜まっていくのだった。
なるべく本は溜めないようにしたい。
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