
袖摺れってそういうこと
日本庭園が見える部屋は、いかにも京都らしい。
彼女の好きな湯豆腐を食べに来た。
「それで、どういうことなん?」
彼女が尋ねた。私は乳がん検診の精密検査を受けたことをLINEで伝えていた。不安で話を聞いてほしかったのだ。
「まだ、分かんないんだけどね」
そう答えると、彼女は私の左胸に向かって叫んだ。
「がん、死ねー」
あまりに唐突で吹き出した。
「いや、そっちの胸じゃないし」
今度は右胸に向かって叫んでくれた。
彼女の声と私の笑い声が、静かな部屋に響き渡った。
店を出てお寺などを巡ると、あっという間に夕方になった。
別れるのが寂しい。
彼女が言った。
「さ、帰ったらテニス行こー」
今日の予定は私だけでよくない?
でも、これが私たちの関係といえるかもしれない。
今日会ったことは特別ではない。またいつだって一緒に湯豆腐を食べに来られる。
後日、検査結果が異常なしだったことをLINEすると
「心配したで!」
と短い返事が返ってきた。
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