私の知らない夫
夫の実家のアルバムには私の知らない夫が映っている。
例えば高校の修学旅行の写真。
アイヌの民族衣装を着て、湖をバックに友だちと3人で並んでいる。
坊主頭の夫の顔は、無表情だ。
ところが、大きなバイクの前ではピースをして満面の笑み。北海道をツーリングしている誰かのバイクだろう。勝手に写真を取ろうとして急いだのか、中腰で体が傾いている。うひゃひゃと笑い声が聞こえてきそうだ。
バスの中の写真は物憂げだ。耳にはイヤホン、ふんぞり返って両手を後頭部の下で組み、1人の世界に入っている。みんなとおしゃべりしなよ、と高校時代の夫に言いたくなる。
もう1枚バスの写真があり、バスの窓に反射してかすかに夫が映っている。バスの窓から見た景色だ。
高くそびえる山の上に広い空。
そこに、とんびのような鳥が1羽飛んでいる。
誰に見せる為に撮ったのだろうか。
何てことのない写真。
でもそこには、まだ高校生だった夫の感動が映っていた。
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