見出し画像

【海のナンジャラホイ-46】海藻を学ぼう!

海藻を学ぼう!

海藻の分類は悩ましい

いま、NHKの朝の連ドラの「らんまん」では、牧野富太郎博士がモデルになっていて、植物分類学が話題になっています。ドラマでは、高知県の造り酒屋の当主であった若き牧野博士が、書籍を集めて独学で植物の分類を学ぶ姿が描かれています。この時代から約150年経って、今では巷に数え切れないほどの植物図鑑が出回っています。植物の愛好家は全国にいるし、定期刊行の園芸雑誌だってあります。陸上植物を独学でも学びやすい理由の一つは、その形がはっきりしているからではないかと私は思います。根・茎・葉の区別が明らかで、花や種子の特徴も分かりやすくて、観察やスケッチが容易ですから、見分けたり名前を調べたりしやすいのは明らかです。
日本の海藻の分類学研究が岡村金太郎博士や遠藤吉三郎博士によって軌道に乗ったのも、やはり150年くらい前です。しかし、書店や図書館を覗いても、海藻の図鑑というのは片手の指の数にも満たないほどしかありません。海藻の分類を趣味にしている一般の方の数も、おそらくかなり少ないでしょう。海藻が一般の方たちに馴染みがないのは、海に生えていて触れる機会がないからだというのは当然です。でも、なんと言っても、その得体の知れなさにも理由があると思います。根・茎・葉の区別が判然としないものが多いし、花も咲かないし、種子もできないので、観察したりスケッチをしたりするための取っ掛かりがなかなか見つからないのでしょう。しかも、生え始めと最盛期と枯れかけの時期で随分と姿が変わってしまうこともあって、いま自分が見ている海藻がどの種類のどんな時期のものなのかを判ずるのは、しばしば極めて難しいのです。

五感を活かして

海藻を学ぶのにまず良いのは、海藻がいちばんよく茂っている春の時期に観察を行うことです。そうすれば、育ち始めや枯れかけのものに惑わされる可能性は少なくなります。できることなら、5月あたりの大潮の干潮時が望ましい。そして、拾ったり採集したりした海藻については、図鑑を見て名前を付けようと考えるよりも先に、自分の五感を活かして、まずできる限り区別を試みることが大切です。形や色、硬さや手触り、そして匂いの違いによって仕分けしてゆくのです。振ったり折ったりした時に生じる音が参考になることもありますよ。白いバットのような容器があれば、そこに並べてゆくと見やすいですね。最近ではかなり優れた海藻の図鑑も出版されていて、海藻の種同定もしやすくなってきたのですが、それでも陸上植物に比べるとかなり難易度が高いように感じます。個体の区別が良くわからないことが多く、また、それぞれの種に典型的な形やわかりやすい判別点がなかなか無いのです。だから、図鑑掲載の写真がどんなに優れていても対照させることが難しくなるのです。また、海藻の判別の重要なポイントとなる硬さや手触りや匂いが、図鑑ではなかなか分からない。だから、まず五感を駆使して自己流で分けてみるのです。自分で勝手に名前をつけてみても面白いかもしれません。そうしてから、図鑑を見ると、図鑑の中で述べられている判別ポイントなどもわかりやすくなって、種同定が行いやすくなると思います。頭で分かろうとするよりも先に、まず自分で十分に観察して海藻に良く馴染んでおくことが大切です。

習うが一番!

図鑑を使って海藻の種の同定を行なっても、本当に正しいのか否か甚だ自信のないことが多いと思います。そんな時には、海藻を良く知っている人に聞いてみるのが一番です。でも、普通はそんな知り合いは身の回りにいないでしょうから、博物館などが主催する観察会に参加してみるのが良いのです。そういった機会には、図鑑では分からない五感を活かした海藻の識別について教えてもらえるはずです。もし、ふだんから自己流の仕分けのトレーニングをしておいたなら、なお一層効果的でしょう。教えてもらったことが頭にも体にもスッと染み込んでゆくはずです。

おしば標本を作ろう!

海藻を覚えて学ぶのに最も良いのは「おしば標本」を作ることです。採集した海藻を真水で塩抜きしてから、ケント紙や厚手の画用紙の上に拡げて重石を乗せた状態で乾かすのです。乾燥したおしば標本には採集場所や採集日時も書いておきます。紙に貼り付いた状態の海藻は重ねて保管すれば場所をとりません。また、見たい時にすぐ取り出すこともできます。自分では同定ができない海藻があったら、とりあえずおしば標本にして保管しておいて、観察会などの機会を利用して、専門の方にまとめて名前を教えてもらうこともできるのです。クリアファイルなどに整理して保管しておくと、自分のオリジナル海藻コレクションができます。覚えた海藻が目に見えて増えてゆくのは、楽しいものですよ!
これからだんだん暖かくなって、海岸を歩くのにも気持ちの良い時期になります。海藻観察のベストシーズンの到来です。砂浜に打ち上がった海藻の塊はなんだかゴミのようですが、拾い上げてちょっと寄せ波で洗ってやって、そうして手のひらの上で広げてみてください。不思議な色や形に気がつけば、それは海藻ワールドへの入り口になるかもしれません。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?