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【海のナンジャラホイ-23】イケイケがんばれ紅藻類!

イケイケがんばれ紅藻類!

海藻には緑藻類と褐藻類と紅藻類があります。アオサやアオノリは緑藻類、コンブやワカメやヒジキは褐藻類、そして板海苔の原料であるアサクサノリやスサビノリは紅藻類です。そうですよね。海藻といえば、私たち日本人にとっては、まずは食料です。褐藻類は藻体が大きいこともあり、緑藻や紅藻類よりも生産量が多くなるというのは、容易に想像できます。では、ちょっと下の図を見てください。

図:過去50年間の海藻の商業生産量(実線が紅藻類、点線が褐藻類)(Hurd 他,2014より)


このグラフは世界の過去50年間の海藻の商業生産量を表しています。このグラフには緑藻類は示されていません。緑藻類の生産量は非常に小さいため、褐藻類や紅藻類と一緒のグラフに書き込むと値が小さすぎて、見えなくなってしまうためです。
では、褐藻類と紅藻類のグラフを比べてみましょう。褐藻類の生産量はデコボコしながらもどんどん増大しています。予想通りです。2010年あたりまでは、褐藻類がダントツ1位です。ところが、そのあとの10年間がビックリです。紅藻類の猛烈な追い上げがあって、2020年を前にして、ついに褐藻類を追い抜いてしまったのです!

何が起こったのでしょう? 世界中に海苔巻きおにぎりの大ブームが起こったのでしょうか? 海苔は低カロリーであるうえ、重量の4割のタンパク質を含むことや食物繊維やビタミンも豊富に含むことから、健康食品として人気急上昇中であるのは事実です。しかし、褐藻類の生産量を追い抜いた理由は、これではありません。実は、食用海藻としてではなくて、原料海藻としての生産によるものなのです。
まず、寒天(アガー Agar)の原料海藻です。寒天は主に紅藻類のマクサなどのテングサ類から作られます。寒天はもちろん低カロリー食料としても大人気ですが、生物科学の研究において、微生物の培養や遺伝子解析の時の電気泳動などに欠かせないのです。遺伝子解析研究や疫学研究など生物科学や医科学の発展は、高品質の寒天の需要を高め、テングサ類の生産量を押し上げたのです。
そして、もうひとつは、カラギーナンの原料海藻です。カラギーナンは、主に食料の増粘剤として使われる物質で、紅藻類のキリンサイ類やツノマタ類から抽出されます。アイスクリームなど様々な食品の原材料の記載されているところに、よく「増粘多糖類」というのが出てきます。これは、多くは紅藻類に由来するものです。カラギーナンの生産を目的に盛んに養殖されているのが、熱帯域を中心に生息するキリンサイ類で、インドネシアとフィリピンが2大生産国です。これらの国々では、主にサンゴ礁の魚介類の漁獲が漁業の中心だったのですが、キリンサイ類の養殖が行われるようになって、熱帯域の漁業産業をすっかり変えてしまったとも言われています。

大型褐藻類に比べると体の大きさがはるかに小さな紅藻類たちは、他の海藻との競争や植食動物の忌避や付着生物の防除などのため、生き延びるために体の中にいろいろな化学物質を蓄えます。このため、紅藻類からは、多様な有用化学物質が抽出されるのです。紅藻類は小さいけれど、一生懸命に工夫しながら生きています。そして、その生産物質によって、人類にも多大な貢献をしてくれているのです。頑張れ、紅藻類!

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

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