菌・細菌とは何か? (光合成細菌シリーズ 2/4)
細菌(真正細菌、バクテリア)
細菌(真正細菌、バクテリア)とは、古細菌、真核生物とともに地球上の全生物界を三分する生物の主要な系統(ドメイン)の一つである。すなわち、生物界には、原則として核を持たない細菌と古細菌、そしてそれ以外の核を持つ真核生物に大きく二分されるとされている。ここでいう核とは細胞核のことで、真核生物の細胞を構成する細胞小器官のひとつである。細胞核は細胞の遺伝物質の大部分を含んでおり、複数の長い直鎖状のDNA分子が細胞の遺伝情報の保存と伝達を行う。真核生物のほぼすべての細胞に細胞核は存在する。通常は単に核ということが多い。
これに対して、細菌と古細菌は核を持たない原核生物と呼ばれる。細菌は、核を持たないという点で古細菌と類似するが、古細菌と細菌の分岐は古く、細菌は古細菌と比較して遺伝システムやタンパク質合成系が違うことからも、両者は別の系統の生物とされている。なお、細菌よりさらに微小であるウイルスは、構造的に細胞ではなく粒子を持つとされ、いわゆる半生物のようなカテゴリに分類されている。
細菌は、大腸菌、枯草菌、藍色細菌(シアノバクテリア、藍藻)など様々な系統を含む生物群である。通常1-10 µmほどの微生物であり、真核生物と比較して非常に単純な構造を持つ一方で、はるかに多様な代謝系や栄養要求性を示す。微生物という視点から細菌は、分解者とされており、代謝の物質循環の観点からは、生産者の生産した有機物を分解して無機物に異化するなど生態系における重要な役割を担っている。
また、微生物とは一般に、目にみえないくらい小さな生物の総称で、細菌(バクテリア)、菌類、ウイルス、微細藻類、原生動物などが含まれる生物群を表すものである。
光合成細菌と藍色細菌(シアノバクテリア、藍藻)について
光合成細菌とは、その生命活動(代謝)の中で主に光をエネルギーとして光合成を行う細菌グループをいい、炭酸同化によって二酸化炭素から有機化合物を生成する細菌である。水(H,O)を使って光合成を行う細菌には藍色細菌があり、硫黄(S)を使って光合成を行う細菌には緑色硫黄細菌と紅色硫黄細菌がある。この二種の硫黄細菌が硫黄の多い環境に生息していることからも、地球の起源の頃に発生した原始的な細菌であることを想起させるものであるが、この二つの特色を持ち合わせているのが藍色細菌である。
藍色細菌もしくはシアノバクテリア、藍藻(以下藍色細菌)は、酸素発生を伴う光合成、すなわち酸素発生型光合成を行う細菌の一群である。藍色細菌は系統的には細菌ドメインの真正細菌に属する原核生物であり、真核生物である藻類や陸上植物とは系統的に異なる『細菌』である。しかし、陸上植物のものも含めて全ての植物の葉緑体は、細胞内共生において取り込まれた藍色細菌に由来すると考えられており、藍色細菌は植物の起源を考える上で重要な存在である。藍色細菌は、単細胞、群体、または糸状体であり、原核生物としては極めて複雑な体をもつものもいる。光合成色素として藍色をしていることが多く、藍色細菌のシアノバクテリアという名前はギリシア語で「青色」を意味するシアンに由来する。
細菌の歴史
1828年、クリスチャン・ゴットフリート・エーレンベルクが、顕微鏡で観察した微生物が細い棒状であったため、古代ギリシア語で「小さな杖」を意味する『バクテリオン』から造語し、ラテン語で “Bacterium” と呼んだことにその名が由来する。この複数形が Bacteria である。日本語の「細菌」の語の発案者は不明であるが、1895年(明治28年)には『細菌学雑誌』が創刊され、19世紀末には既に使われていた。
なお、「細菌」には「菌」という漢字が使用されているが、狭義の菌類であるキノコやカビなどの真菌には含まれない。また、それと同様に、細菌とは別グループの生物である「古細菌」には細菌という語が使われているが、狭義の意味での細菌に含はまれない。分類学上の「菌類(真菌)」(Fungi)、「細菌」(Bacteria)、「古細菌」(Archaea)は、別々の独立した生物である。
細菌とは区別される菌類(真菌)とは、狭義には真菌類を指す。この真菌類は、キノコ・カビ、単細胞性の酵母、鞭毛を持った遊走子などの多様な形態を示す真核生物の生物群である。大部分の菌類は、外部に分解酵素を分泌して有機物を消化し、細胞表面から摂取する従属栄養生物であり、菌と細菌とは明確に区別されるものである。
地球上において、細菌は、古細菌とともに生命発生の最初期の頃から存在すると考えられている。そして、細菌由来と想定される化石が存在しているものの、大部分が単細胞性のものであり極めて小さく、独自の特徴的な形態などを持っていないため、地質学的に細菌の進化の歴史を解明するには多くの困難がある。一方で、生きた細菌がもつゲノム情報を検討することで、細菌の系統学的な進化プロセスが推定されており、細菌と古細菌の分岐は真核生物の誕生よりも前に遡ることが明確に示されている。
細菌と古細菌の共通祖先は、35-40億年前頃に生息していた超好熱菌の一種であるとする仮説が出されている。それら初期生命体の生息環境が海であったのか陸地であったのかさえ定説は存在しないが、とりわけ藍色細菌は、およそ25–30億年前に地球上に初めて現れた酸素発生型光合成生物であったと考えられている。そして藍色細菌の光合成によって、地球上に初めて酸素と有機物が安定的に供給されるようになったとされている。この酸素発生型光合成というシステムは、細胞内共生(一次共生)を経て葉緑体の形で真核生物に受け継がれ、多様な真核藻類および陸上植物の元となった。例えば、ミトコンドリアを既に保持していた一部の真核生物が新たに藍色細菌を細胞内に取り込み、今日の藻類や植物が持つ葉緑体を形成したと考えられている。これを一次共生とよぶが、画期的な生物学上の進化の過程であったと考えられている。細菌の中には、他にも硫黄細菌のような光合成を行う光合成細菌と総称される細菌グループが存在するが、酸素発生を伴う光合成を行う細菌は藍色細菌のみである。
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