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lab / 末埼鳩

末埼鳩
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鉄の柵や深い堀で隔てられた私と見知らぬ動物たち

ヤギとヒツジがいつまでも顎を左右に動かしている
あの横長の瞳孔が何も映して無いようなのは
ここに天敵がいないから

肉食獣が檻の中を意味もなくうろついている
オオカミの毛がぼさぼさでみすぼらしいのは
意地悪なカラスにむしられるから

お客のいない動物園を
仕立ての良い服を着たサルが案内してくれる

キリンの紫色のベロ 透明な唾液
ゾウガメの交尾は延々と続く
ニシキヘビを腕に巻けばひんやりとして
ガラス越しのコウモリは指をぺろぺろ舐めてくる

ベンチに座ってソフトクリームを食べながら私は言う
「仲間はずれにされているような気がしてきました」

ヒトはどうして毛皮を脱いだのだろう
こんなにも脳を肥大化させて
母親をひどく苦しめてまで

夏の盛りの動物園は獣のにおいが鼻につく
ソフトクリームは溶け出して
腕を伝い、肘の先から熱い地面に落ちてゆく

白くて四角い建物に入ると冷房が効いていた
『汚れた手をきれいに洗おう』
甘いクリームで汚れた手を
『手のひらの細菌を見てみよう』
顕微鏡で見る不思議なかたち

「ピントを合わせるのがとても上手ですね」
あなたの指はどうしてそんなに繊細な動きをするの
毛むくじゃらの細い指と白くて肉付きの良い指を
見比べていたら時間になった

真っ赤なオウムが飛んできて私にお知らせしてくれる
『閉園まであと10分です』
『閉園まであと10分です』
「それでは、さようなら」

遠ざかる私の背中をサルが見ている
真っ黒なビー玉みたいな目で見ている
私は振り返ることなく建物を出て
夕暮れの動物園を後にする

ここが何のために存在するのか私は知らない
お客のいない動物園は
私が出ていくと音もなく、ひとりでに、門を閉じた