それは永遠じゃないよ / 二枚貝
意味、という言葉を聞くと
すべてがまっしろになって
そのとき、胸の中から一匹の蝶が生まれる
「でも、その蝶は昔、芋虫だったことがあるんでしょ?」
ときみが言って、すべての瞬間は過去になっていく
だって、時間が流れているから
音楽が鳴りやむ時なんて、永遠に来ないから
*
えいえん、という言葉を口に出してみると
少し、こわくなる
頭の中にまばゆい光が一筋浮かんで
そのあとにどうしようもない真っ暗な空洞が見えてくる
ぼくは、これを知っている
これは、宇宙が終わってしまったあとの、なにもない空洞だ
*
やがて、何百年もの時間が流れて
海の向こうの遠い国に生まれた少年が
あの空洞に
「かみさま」という名前を付けた
*
ある少女は
猫のお腹を切り開いて
その中に「かみさま」を見つけたし
ある外科医は
末期がんの患者の身体を切り開いて
心臓の少し下のところに、小さな天使を発見した
*
それから、大きくなったきみは子どもを作って
きみの子孫は何万年にもわたって続いていった
だけど
数億年くらいが経った頃に
宇宙はシャボン玉みたいに弾けてしまって
きみの子孫たちも滅びてしまった
*
そして、また途方もない時間が過ぎ去っていって
再び宇宙は始まって
繰り返されていく
意味、という言葉が再び産み落とされて
きみの頭の中をジムノペディが通り過ぎていく
*
マリリン・モンローは
1962年に、急性バルビツール中毒で死んでしまったけれど
おとぎ話の中のお姫さまは
永遠に幸せなままだ
*
夜、眠ってしまう前に
「ぶらふまんって何?」と
きみが尋ねて
意味、という虚構の裂け目から生まれた蝶が
まんまるの子宮の中で眠り始める
*
もし次に
きみが再び目を覚ますことがあったのなら
そのとき、きみは
まっしろな空洞そのものだから
大丈夫だよ(あなたは何も思い出せない)
大丈夫だよ(あなたは何も思い出せない)