てのひらのか / 諍井寄人
ぱち
泡の弾けたような
音 瞬間
手のひらで蚊が
死んで
血を流した
血を
腹いっぱい飲み終えた
充足の痕 からっぽな
死だけが手に摺りつき
すべて無駄、と鮮やいだ
その血は
この皮膚に紅を挿したのは
オマエか 手のひらの蚊
びいびい鳴きながら
飢えさまようだけが
一命か、それ オマエは
飢えをしのいでは飢え
腹を満たせば膨らむだけが
一命だったのか 言え
どうしてオマエは
オレの血を流しているのか
オレ以外の死から
噴きだしたオレの血が
虫ケラほどの役にも立たないで
垂れ流されたのは
(皮膚に紅
掻い掻く紅い蚊苦)
だれもかも
すべて無駄、という言葉に落ち合うこと
泡の弾けたような
瞬間に染めあがった死生観
手のひらで蚊が
謐に証して