陸、わたしの弟 / カジノマユ





髪は水にとかれて藻のやうに散り/おまへの蒼白い身体の上を/濁つた波が次ぎつぎに砕けていつた。/ーー伊藤整

縋りたい真夜中に病が発生し
傷が力の及ばない領域まで
逃走を試みるが
感受性を武器にはしないから
わたしのまなこの光が侵蝕されていくのを
カーテンで塞いで、早朝を見過す
遠い摩天楼にゆめを託してる
最初から記憶を冷凍しても
解凍したら汚れた水でしょ?
淡くはないでしょ、儚くもないでしょ
過去は否応なく改竄されるのだから

思考回路が邪魔をして漣が呼んでる
いちど聞いてみたかったんです
「茜空はあなたにとって救いですか?」
きっと笑うけどわたしは鋭く
馬鹿らしいよ、なんて日々が懐かしい

泥のように眠りたい 目覚めたくない
電話が鳴って朦朧としてあなたの
立派な肩幅を思い出す
それだけがわたしを現実に連れ戻す
霧のようなゆめのなか
その立派な腕はあなただったのね
わたしのたったひとりの弟

縋りたい真夜中に病が発生して
海月のように泳いで
力の及ばない領域まで傷を遠くまで連れて行きます
質の悪い感受性をあなたに押し付けるのを許してね
陸、わたしだけの弟