春の生まれる街 / 早乙女まぶた
病人はベッドに火をつけて拒絶した
無益な営みとその次を
静かに天に向かう煙
ぬいぐるみがそれを見ている
子供たちは空を見ない
ひと切れのパンを鳩に奪われて
痩せた未来と彼らは倒れた
砂の城は崩れて夕暮れは歪んだ
黒い煙が太陽を埋めて訪れた夜に
対岸の男女は橋をかけるのをやめた
やがて人類はいなくなった
ぼくはぼくのままだ
死んだビルの間に立って
ピアニッシモをきいていたんだ
凍りついた時間のその中に
はじめて自分の目で見た風景に
シャボン玉を飛ばす
透明にさまよう人たちの
薄れゆく春夏秋冬
その走馬灯を回して
最後の泡が割れる
頽廃に芽吹く春を見た
それが幻であっても