ひとりごと / 白神つや
せっけんの包装紙を
途中まで破いたところで
それがなんだったのかが
わからなくなる
ふいに、
背後に背伸びした白昼の嘴が
僕の肩をついばんで、
細い骨骼をそっと盗んでゆく
神隠しみたいだった
――というのは、
ついこの前の話だったんだ
僕は何の気なしに座っていた
なにがなんだか、わからなくて
頭が冴えていないよ 今
積み木ばらばらが降っている静観
とは言うものの、
君の無垢なひたむきの前では些細だ
無味だった部屋にひびが入った
だから
するどく貫こうと丸まる
僕らの言葉に添えられている
指紋がぺたりと 足音をつれてくる
そのいざないを、何食わぬ起立を 断じて
通過させるわけにはいかない
(しかしこうしていつも、
僕は言うだけだけれど そう言うだけ
くだらない)
廃道で立っている、
君の折れてゆく姿を眼前にした
しんでしまいたい
傷のない日々 僕のいる倦怠、その日記
綺麗な泉 白く泡立つ表面だけ
色水を吸い取って、吸い込んで
虚しいと口にすれば するほど
精液にまみれる 膨らんだ紙片
あのさ、
街の真ん中で転んだ、黄色い傷口
君に見届けて欲しい
あああ、
路上にぶちまけた
吐瀉物の色数を街のみんなに
きいてまわってやるんだ
なんかそんな気分だよ
僕を中心とした落とし穴を
裂いて すべてを無視して
なぎ倒してゆく君の
踏みしめる自然
追いつけなかった
受け止めきれない 破壊された
焼け野原の一人部屋
僕はそれを呆然と見つめている
君を、君以外のすべてを失意して
見つめている
けれどなおも、
そそがれている そそがれ続けている
君は僕の怠慢をゆるさない
峡間にあるやわらかい違和感
君のいる部屋の扉と、僕の部屋の扉
くっつけたらわかるのかな
みつけにくい透写紙、邪魔だよ
たぶんその隙間は、
かみさまが世界をつくり終える
時に机から転がっていった
みつからない一つのネジだ
(いたずらの効いたような)
それゆえの、
くずぐったさ くしゃみ あくび
擦れ違い 抱擁 隣人の殺意
ここへ隕石の落ちる言い訳
僕の額へ沈む意味
君が見ず知らずの手向け
たぶんそんなもの
しにたくなる
だれとも言えない指先の一つが
背筋にかかっているよ 呼んでいる
僕を呼ぶ、くすんだ昼景色
耳をかさない、
みじめな足首の青白
それらを、
すべて抹殺したあたたかい爪の湯烟
好きだよ、
君がだれなのか知らないけれど