音 / 火星鯨類研究所

天使が羽ばたくだけで
静けさは崩れるのに
どうしてこんなにも鋭く 靴音の響く
都会の駅の中心で突っ立っている
誰もが銃声を抱えて生きている
それが電車の遅れる理由
この街から 私は亡命したい

しかし 見えない壁が
兵士のように 街を囲んでいる
それを超えられるのは
強い鳥だけ
私はビニール傘という
飛べない羽を抱えて
眠ることの出来ないベンチでうずくまる人

天使が羽ばたくだけで
静けさは崩れるのに
どうしてこんなにも優しく 雨音の響く
ビルは泣いて
街路の草木はうなだれて
人々の声を濡らす 冷たい音
飛べないのに羽を広げる バサリという音