心象 / Iriwo
赤い実がついている。枯れた葉がまばらに、今にも落ちそうな様子で枝に引っかかっている。
それでいいかと思っている。それでいい?何を選べるかのような口ぶりで言っているのか。精確に言えば、どうしようもないことを選べるようなポーズをとっている。選べないものを選ばないことと言い換えることで、虚無から逃げようとしている。逃げていることから逃げている。ポーズを取らないと何もできない。ポーズを取るためのポーズを取ることを愚かだとは思わないまま、なにかおかしいと思ったり、そんなものかと思ったりする。
できるだけ丁寧に、正確な嘘をつく。
ちょっと首をかしげて、いや、それだとわざとらしいから、あんまり何も考えていないような顔をしながら、少しため息をつくように、「難しいことばかりだ」なんて言う。
難しいこと、難しいこと、難しいこと。それはなに?鏡に映すまでもなく、口元は笑っているだろう。
嘘をつかないといけないと皆が言っている。
嘘をつかないなんて嘘つきだと君が言うので、そうです、ぼくもせいいっぱい嘘をついているんですよ、みたいな顔をしている。
でもぼくは、君が嘘をつかなければいいと思っている。嘘をつかないでほしいと、願っている。
だれが嘘をつかせた。
砂漠を歩いている。歩いている間は嘘をつかないでいられる。でも転んだ瞬間、そこは一面の泥沼だった。
嘘をつけなかった人間が、うわごとのように何もないと言い続ける。無い(そう、無いのだ)勇気を持っているかの如く弱々しい腕を振り上げたまま、薄い羽根を夢で濡らし続ける。すぐに溶けたり、壊れたり、病気になったりして、自身を世界と立ち向かわせる道具として輝かせようとする。小さな永遠のなかで、もがき続ける。
墜落する隕石に影が無かったから、つぶされる瞬間までぼくたちは気づかなかった。
重みすら感じることなく、二度と世界に戻れない。ぼくたちは宇宙に閉じ込められた。
ああ、君に嘘をつかせたすべてを殺してやりたい。
視界がぼやける。細い、茶色い枝に小さな赤が灯っている。
嘘をつきたくない。死にたくない。そのためなら、何をしてもかまわない。
メトロノームのように正確な嘘を、難しいことの間に挟んで、今にも落ちそうな乾いた生命に添えた。
そう、ぼくは一片の欠片も残さず枝を折ってしまいたかった。
顔を上げたとき、心象には何も残っていなくていい。
たとえその切っ先が、ぼくを追放するかのように鋭く尖っていても、その枝の綺麗さは少しも損なわれないのだと、君に伝えたかった。