誰かを待った / 象徴
海が波の繰り返しからできているように、私もまた、単純な反復からできている。寄せては返す波のなかで、どの波を憶えていられただろうか。それは目にうつる色彩の一つ一つもそうで、綴った言葉の一つ一つも、匂いも、温度も、声も。どれも汲み尽くすことはできない。いくつもの波を忘れ、そして思い出してきた。海を見るたびに、遠い過去に忘れたものを思い出している。だから海は遠い。目の前にあるものすべてが遠く、そして最も近いものとなる場所だ。いま、遠い過去に誰かが感じ取った、波という、言葉では言い尽くせぬ何かを、私が思い出しているということ。それがここに立っているということであり、きっと言葉を綴るということだ。ここには予感が満ち溢れている。それだけで終わっていくすべてのものが祝福されている。だから誰もいない海辺で誰かを待った。誰かを待っていた