島 / だんご
小さな島があった。住むのは老婆とその孫の少年のふたりきり。
島は豊かな木の枝が集まってできていた。木の枝で指でつまめる程度の細く小さいものばかりであるが、不思議と光沢があり太陽に向けると虹が浮かんで見えた。それらは歩くとポキリパキリと心地良く響き、足の裏をくすぐる。
島に木は1本も生えていない。木の枝は降ってくる。ふたりはそれを「雨」と呼び、雨が降る日は家で過ごす。雨があがると祖母は家を出て空に向かって拝む。少年も同じように拝み、島に散らばる木の枝をきれいに均す。ほうきで木の枝を撫でるときらきらと輝いた。最近は雨の日が減っている。貴重な木の枝を一本たりとも無駄にはしない。
島から数本拝借して祖母は毎日工作をする。ある日はショートケーキ、またある日は観覧車。翌日、少年はそれで自由に遊ぶ。十分に遊ぶとそれらは自然に島へ帰っていく。
季節を問わず世界中の鳥がこの島を訪れて、器用に島に落ちる木の枝を啄み運んでいく。少年が生まれる前から鳥たちはこの島を訪れては木の枝を啄み運んでいる。
年々雨の日が減っている。それでも鳥は巣を作るために島を訪れる。少年が10歳の誕生日を迎える頃には、島はとても小さくなって少年は遊び場を失い、祖母は工房を失った。
少年は祖母に訴える。早くこの島から出ましょう。もしくは鳥を追い払いましょう。
祖母は答える。私は島から出ない。鳥も追い払わない。
少年は目に涙をためて言った。僕が島を守るよ。
祖母は何も答えずに寝室に行った。
少年が目を覚ますと見知らぬ人間が少年の前に立っていた。少年は気づかぬ間に嵐に連れ去られて島の外にいた。島のことは誰も知らなかった。地図を見ても載っていなかった。この辺りで祖母を発見した人は誰もいなかった。
少年は親切な人の養子となり、学校へ通った。勉強をした。友だちと遊んだ。家族とご飯を食べた。島と祖母のことを忘れて。
少年は青年となった。妻と暮らす新居の庭にキジバトの巣ができた。巣を作る木の枝の一本一本が立派で豊かな色をしている。不思議と光沢があり太陽の光があたると虹が浮かんで見えた。青年は輝く巣を見て眩しそうに目を細めた。