ひずみ / 鯨野九

右目と左目の
視力が違うように
右足より左足が
僅かに長いみたいに
私たちは
もう随分ひずんでいる

魂が火照るから
寝返りをうつ
生きていたいのほうへ
死んでいたいのほうへ
何べんも 何べんも

(ためらいがちに
優しさに堪えつづけた)

正しくなりなさいと
告げた人の心臓も
ひずんでいたことに
こんな夜、気づいてしまう

右脳と左脳の
働きが違うように
右耳より左耳で
罵りが痛むみたいに
右手と左手ずつで
花とナイフを握っても
私たち
きっとそれでよかったのに