地中の愛 / 井上瑞貴
地中にしかない場所で
永遠は広さではなく高さでもなかった
地形に根拠を与えて
地中の約束を果たしにきた
わかっていましたよね
点と点とが排他的に出会い
別々の方角に弾き飛ばされていくときのかがやきを
一瞬の愛だったと思い出しにきた
地中の風が吹く丘に向かう道に
どうしても花を咲かせようとしてしまう草が群生している
泥の血液を循環させ
十年後の愛で口をとざしている草とともに丘をめざした
冷えているうちに
すべてを告げ終っていた草とともに眠って目覚めた
川音に靴音が混じってきこえた
もう告げることはないよね
小さくなる靴音が美しく響いた街角
嘘が終わってしまう歴史の瞬間に
歩むことを禁じた素足で立ちつくしていた
とっくに粉々になったひとを
今にも去っていくひとのように見送っている
最後まで去らなかった靴音が最後に去った街角を折れながら
比喩のように離れたものに移動の自由を与えた
もっとも遅い一日の終りに
もっとも遅い音楽を流した
去るものにはもっと遠くがあるのだとしても
相対的な移動にすぎず
ふたりの座標を外れることはけっしてない