とある国にて / 橋木正午

オープニングが決まっていた
手の大きさが決まっていた ドレッシングが決まっていた
はい と いいえ
どちらもまだなんとか生きていた

「信念などあるか!」と はい
「命なければ、なにが残る?」と いいえ
どちらもサンキャッチャーのなかに隠れ
ハウスダストになって逃げてしまった

それを吸い込んだ子供たちはひどい咳をして
そのうち、全員同じ名前で呼ばれた
「元の名前はお墓につけましょうね」優しい女が言った
「さぁ、お外で遊ぼう。天気が良いよ」優しい男が言った

子供たちはまたひどい咳をした
全員が同じクマのぬいぐるみと眠り
全員が同じドレッシングでサラダを食べた

ある日、
壁にかかっていたアナログ時計が
部屋に差し込む暑い西日の上に落ちた
それは床につく少し前で割れる
優しい女と男は悲鳴をあげた

ひとりの子供が
「はい!」と言って手を挙げる
ひとりの子供が
「いいえ!」と言って手を挙げる
またひとり またひとり またひとり またひとり
また


そのうち、ひとりの子供が俯いたまま
「分からない」とちいさく言った