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『この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選』発掘記事

ありがとう。この地獄の片隅に、うちをみつけてくれて。

この記事を見つけてくださって、ありがとうございます。
USBの中にあるデータを整理していたら、以前書いて結局使わなかった文章が見つかったので、この機会に掲載します。内容は『この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選』収録の短編をそれぞれ紹介したものです。

SFって好きだなー、みんなもっとSF読んだらいいのに、そしてみんなもっとSF書いたらいいのに、そしたら私が好きなSFがもっといっぱい増えるのになあ。
そうだ。それなら私が読んだSF小説とか、SFっぽいものを紹介していこう、そしてSF好きの人口を増やしてやるんだ。日本SF化計画だ。

でもSFに対するイメージって人それぞれだよね。そもそも「SF」って一口に言っても定義が色々あるわけで。とりあえずここでは大きく「センスオブワンダーを感じるもの」ってことにしておこう。“センスオブワンダー”ってなあに?って人もいると思うけど、それはこの記事読んでればなんとなくつかめるように書くつもりだから安心して。それでもわかんなかったらWikipediaとかで調べてね。

今回紹介する作品は『この地獄の片隅に』。名作アニメをパロディにしたタイトルがいいですねー。SFってこの種の「悪ふざけ」の文化が昔からあって、そういう所も好き。本書はJ・J・アダムズがパワードスーツをテーマとして編んだ、アンソロジー(2012年刊行)の邦訳です。原書では23編あったものを邦訳に際して厳選し、12編にまとめています。
人間の力では及びもつかない力を発揮するパワードアーマーは現在のSFでも人気のガジェットです。古くはハインライン「宇宙の戦士」、近年では「アイアンマン」、日本においては「ガンダム」を初めとするロボットものなど様々なカルチャーで目にする機会も多いと思います。

今回はこの短編集に収録された全作品を紹介してみようと思います。ネタバレは無いから大丈夫。

ジャック・キャンベル「この地獄の片隅に」

著者はミリタリーSFを得意とする書き手であり、「彷徨える艦隊」シリーズという長編小説を手がけています。設定は異星においてアーマーを装備した兵隊が戦争を行うというストレートなミリタリーもの。なのだが、アーマーに搭載された「行動不能の兵士をフルアシストする」という機能によって、戦争における機械と人間の関係性をどす黒く示した一編。戦闘の描写にしびれるパンチのある作品です。

ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン「深海採集船コッペリア号」

深海で作業ができるアーマーの活躍を書いたお話。異星の深海で採集などの作業に当たっていた一人が、ある隠された情報を拾ったことから、その情報を狙う者たちとの戦闘に巻き込まれるという物語。水中の中でのアーマーによる戦闘描写が珍しくて面白い。SF小説は、こんな風に現実では体験できないことを追体験させてくれる点が強みだと思います。

カリン、ロワチー「ノマド」

ラジカルと呼ばれるメカと人間との融合体のギャングたちが闊歩する未来のお話。相方である人間のトミーを失ったメカである「オレ」は、自分たちのシマ《縞》を抜けて敵討ちに向かう。
兄弟分を殺されたヤクザが復讐する話として読むと非常にわかりやすくて読みやすいと思います。というか訳者もそれを意識して任侠映画に出てきそうな言葉を多用した翻訳をしているのでそれが分かるとシリアスなのに(シリアスだから)笑えてきます。

デヴィッド・バー・カートリー「アーマーの恋の物語」

天才発明家であるアンソニー・ブレアは、アーマーを脱がない。それは彼が暗殺者の存在を恐れているからだ。では、暗殺者であるミラが取るべき道とは。
恋愛ものっぽいタイトルなので「アーマー」を「心の鎧」の比喩として読みました。お話としては普通。ただSFってこんな風に比喩で現実を映し出すことがあるので、意識して読むと楽しみ方が広がると思います。

デイヴィッド・D・レヴァイン「ケリー盗賊団の最期」

19世紀末、開拓時代のオーストラリアが舞台。隠棲(いんせい)する老発明家アイクのもとに現われた賞金首ケリーは彼にアーマーを作るように要求する。
いわゆる歴史改編ものであり、19世紀が舞台なのでスチームパンクっぽい雰囲気の一編。脅されてアーマーを作ることになった老発明家アイクがいつの間にか積極的に発明に加担していくあたりが「業」を感じて好きです。マッドサイエンティストってなんでフィクションだとこんなに魅力的なんでしょうね。

アレステア・レナルズ「外傷ポッド」

偵察任務中に攻撃を受け、深刻な傷を負って外傷ポッドに収容された兵士マイク。医師アナベルが遠隔通信により彼を救おうとするが・・・。
通信による遠隔からの支援する者とされる者、という設定的に小川一水の名編『漂った男』を彷彿としました。しかし、読後感は全く逆と言ってもいいくらい違う。絶望感を感じたい人におすすめな一編。

ウェンディ・N・ワグナー&ジャック・ワグナー「密猟者」

地球が人類遺産保護区に登録されてから百年。月出身のカレンは、傑出した自然保護官(レンジャー)ハーディマンらとともに密猟者の取り締まりに向かうが・・・。
未来において異世界に変質した地球の描写が良いです。分類するならアーマーSFであり環境SFでしょうか。

キャリー・ヴォーン「ドン・キホーテ」

スペイン内戦末期の1939年。敗色濃厚な共和国側を取材していた「わたし」は、奇妙な戦闘跡を追いかける。その先で見つけたのは・・・。
記者が主人公なので『闇の奥』の感も有り、登場するアーマー兵器は『エヴァ』っぽさもある。タイトルからどんな行く末を辿るかは予め予想できますね。だが、そういった小説や文化や戦争と言った人間の歴史をSFならではのビジョンで見させてくれる。終わり方も良い。短いが大好きな一編です。

サイモン・R・グリーン「天国と地獄の星」

人間に対して極めて敵対的なジャングルが繁茂(はんも)する惑星アバドン。基地建設要員として送り込まれたポールたち。そこはまさに地獄のような環境だったが・・・。
愛する人と悲痛な別れを経験した男の話。読んだことがある人ならすぐに分かると思うけどスタニスワフ・レム『ソラリス』にそっくり。結末はわりと好きです。また、異性の植物の描写が気持ち悪くてよきです。

クリスティ・ヤント「所有権の移転」

専用の着用者であるカーソンを殺された外骨格(エグゾ)の「わたし」は、カーソンを殺した男に着用されるが・・・。
アーマーに意識があり、搭乗する人間が死んでいるという点で、始まりは先程紹介した「ノマド」に似ています。寝たいのに眠れない。スポーツが苦手。自分の身体が自分の思った通りに行かないことは人間誰しもあるでしょう。これはそんな自分の肉体について考えるきっかけを与えてくれるお話。

ショーン・ウィリアムズ「N体問題」

ループと呼ばれる一方通行のワープゲート網の行き止まりにあるハーベスター星系。そこに流れ着いたアレックスは、そこでメカスーツを着た不思議な女性執行官アイと出会う。
女刑務官に言葉と素手で暴力を振るわれながら、だんだんとデレてきた女刑務官と最期は合体する話。嘘です。でも大体合ってると思う。人によっては違う意味で興奮するであろう短編。

ジャック・マクデヴィット「猫のパジャマ」

パルサーをめぐる研究ステーションを訪れた支援船カパーヘッド号。だが、ステーションは何らかのトラブルに巻き込まれているらしく・・・。
SFには昔から「猫SF」と呼ばれるジャンルが存在しますが(夏への扉とか、猫の地球儀とか)、これもそのひとつ。宇宙船内で猫に振り回される主人公たち。舞台の大きさと焦点の小ささのギャップが良い。懐かしさと安心感がある一編。

おわりに

機械と人間の心の問題を扱った作品。ラブロマンス。ガチのミリタリーSF。スチームパンクや深海ものなど、パワードスーツに焦点を当てた作品であってもこのように多様性に富んだ短編集になってます。それぞれのパワードスーツによる戦闘描写はパワフルで魅力的。また、加藤直之氏による短編ごとに描かれた表紙もかっこいい。アニメやゲームが好きな人には特にグッとくるアンソロジーですね。気になった方は気楽に手に取ってもらえれば幸いです。

誰でも、この地獄でそうそう居場所はのうなりゃせんのよ

ここまで読んでくださってありがとうございます。使う機会の無かった文章がこうして無事居場所を見つけることができました。よかったね。短編ひとつひとつを紹介するのはTwitterでもブクログでもあまりやってこなかったので、たまにはこういうのもありかなーと思います。まだUSBの中にはいくつか未使用の文章が残ってるので、今後もちょいちょいUPしていく予定。ちゃんと全部掲載できたらおんのじです。
「みんなが笑うて暮らせりゃあ、ええのにねえ」

こうの史代『この世界の片隅に』

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