『ブラック・ミラー』完全版 ①
noteを使い始めてはや2年半。雑記帳として運用をしていく中で、映画なり本なりの感想なんかをまあまあ書いてきたのですが、その中でも異常に閲覧されている記事がございます。それがこちら『ブラック・ミラー』の紹介記事。
昨年春ごろに書いてから結構時間が経つにもかかわらず、何故か毎週のように閲覧されており、先月書いた色んなジャンルの年間ベスト記事を押しのけて傘籤の記事内で月間トップのレビュー数に(いま調べたら先月だけで1,018回読まれてた)
なんで??
別にスキの数や閲覧数を伸ばしたくて記事を書いてるわけじゃないけどこの記事の見られ方は不思議でしょうがない。なんかのアルゴリズムの結果なのか。はたまたブラック・ミラーにまつわる文章を読みたくてしょうがない大規模な母集団が存在しているのか。マジでわからん。
ということで、そんなに読みたいなら読みゃええやん。と思い立ち、作ってみました〔完全版〕。
シーズン1からシーズン6までの1エピソードごとに感想を併記。あくまで個人的な感想ですが、こんなものでも何かの助け(?)になるのならどうぞどううぞご覧ください。
ちなみに全部まとめてしまうと長くなりすぎるので3回にわけてみました。それでは、はじまりはじまり~。
シーズン1(2011)
1話 「国家」 (原題:The National Anthem)
シーズン1の1話目にして最大の問題作。そして『ブラック・ミラー』シリーズを象徴する話でもあります。
イギリスで国民から人気のスザンナ姫が誘拐される。犯人も目的もわからず、国中が混乱する中、英国首相にある”要求”が突きつけられてきた。それは「首相が豚とセックスしているところをリアルタイムで放映しろ」というもの。これに対して国民たちは大盛り上がりし、中継を流せ流せと迫ってくる。スザンナ姫を人質に取られていることもあり、苦渋の決断の上、首相はその行為を実行に移すこととなり……という内容。あくまで寓話ではあるのだけど、SNSの醜悪な部分や、もっと根本にある人間の欲望について、えぐみたっぷりに見せつけてくる作品です。1番最初にこれを持ってくる気骨とセンスがまずすばらしいですね。衝撃的な内容ということもあり冒頭から最後の場面まで眼を離すことが出来ませんでした。つまりそれは、私もまた大衆が持つ醜悪さから逃れられていないということを意味しているわけで……。
まぎれもなく傑作、だけどよい子は見ちゃだめだよー。
2話 「1500メリット」 (原題:Fifteen Million Merits)
ディストピアもの。徹底的に管理されたその社会の中から脱出するためにはオーディションに合格するしかない。しかし優勝者に待ち受けているものは……。『アメリカズ・ゴット・タレント』の風刺になっていて、大勢の前で人間が人間を評価することの不気味さとかおかしさを露悪的に描いた作品なのだと思います。「ルックスの美しさ=性的な魅力」というひどく一元的だが、だからこそみんなが乗っかってしまう部分を露わにしていく。最後は自分の気持ちが「偽物」へと置き換わる瞬間を捉え、人間性の敗北に行き着くという……。オチが性格悪くて、これも好きな作品です。
3話 「人生の軌跡のすべて」 (原題:The Entire History of You)
自分の記録をすべて録画再生できる近未来が舞台のお話。この題材で”夫婦の話”なら当然「不倫」という方向に進むんだろうなー、と思っていたら予想通りでした。その意味で新しさはあまり感じられなかったけど、脚本はきれいに整頓されていてグッド。録画を再生するデバイスを使うときの指使いとかも見たことないはずなのに「生活に根付いている行為」として描かれていて、その異化効果が地味にワクワクします。
シーズン2(2013)
1話 「ずっと側にいて」 (原題:Be Right Back)
死んだ夫ともう一度会いたいがため、AI技術やアンドロイドを使い、その喪失感を癒やす話。この手の話から想像する既定路線から特に外れることは無く、拒絶→需要→拒絶→ある程度の需要という流れになっている。でも演出や演技、テクノロジーの描写が巧く、観ていて楽しい。最後のオチは人間の心の弱さとかエゴが垣間見えて好み。
2話 「シロクマ」 (原題:White Bear)
サバイバルもの、ちょっとデスゲームも入ってるかな。リアリティショーを消費する構造を描いてるようにも見える。あるいはゲームプレイ動画を眺める視聴者と、狩られるモブから見た視点の物語なのかなあとなんて思いながら観た。
にしてもオチがグロテスク。
3話 「時の”クマ”ウォルドー」 (原題:The Waldo Moment)
イギリスの選挙にアニメのキャラクターを立候補させることとなり……というお話。ブラックユーモアな精神が感じられる政治劇です。風刺が効いてる話が多い『ブラック・ミラー』シリーズの中でもかなりストレートに現状の社会が抱えているいびつさを表現していると感じました。罵詈雑言が多すぎてちと疲れたけど。
4話 「ホワイト・クリスマス」 (原題:White Christmas)
元々はスペシャルとして2014年に製作されたようですが、現在はシーズン3の4話目に収録されているエピソードです。
雪山で出会ったふたりの男が3つの物語を語るという構成。ショートショート3本立てって感じで見たのだけど、3つとも見るとひとつの軸があったのだとわかるように出来ている。冒頭のマッチング・アプリ×リアリティショー×恋愛ゲームの話、ふたつめのAIに生きてる人間の意識を複写することの恐ろしさ、簡単に関係をリセット出来るSNSやマッチングアプリの風刺……などなど個々の話も毒が効いています。
シーズン3(2016)
1話 「ランク社会」 (原題:Nosedive)
SNSでの評価が実社会での評価に直結する社会。つまりすべての行動が点数方式になっているという設定。もはや結構見かける、ありがちな設定ではある。でも途中からこの話はロードムービーに切りかわる。かつて自分をいじめていた女に結婚式のスピーチのため招かれ、そこに向かうというお話に。最後はパンクです。ディストピアからの解放です。ちょっと百合入ってます。結構好き。やっぱSNSってそれ自体がディストピアだなあって。
2話 「拡張現実ゲーム」 (原題:Playtest)
旅行中金欠になった男がMR(複合現実)ゲームのテスターになることでお金を稼ごうとしたら、現実の認識にまで影響を受けてひどいことになっちゃうというお話。最終的に自分自身が誰か、何が現実なのかもわからなくなるってオチはありがちではあるもののやっぱり観ていて楽しい。ゲーム会社はサイトウ・ゲーム社とという日本の企業でした。日本人からしたら平凡な名前だなあ。
3話 「秘密」 (原題:Shut Up and Dance)
現代のテクノロジーにおいて最も身近なものといえば、パソコンおよびスマートフォン。モニターのカメラによって自宅で行った恥ずかしい行動を撮影された少年は、スマートフォンに届く指示に従わざるをえなくなる。胃がキリキリするなーこの話。たぶんこのドラマを観てる人で”自分事”と考えない人なんていないんじゃないかな。最後はみーんな不幸に。マジでみんな不幸になるので、逆に何を伝えたかったのかよくわからない。
4話 「サン・ジュニペロ」 (原題:San Junipero)
こちらはすごーく感動的なSFです。ブラックユーモアや風刺だらけの性格の悪いSFばかりが特徴の『ブラック・ミラー』ですが、それらはこの作品を光らせるためにあったんじゃないかと思うほど観る者の胸を打ちます。
始まりは1987年、クラブで出会ったふたりの女性ヨーキーとケリーは互いに惹かれ合っていく……。しかしケリーは姿を消し、今度は舞台を90年代に移し、再び彼女たちは出会う――。
まあつまりこれは『VRおじさんの初恋』と同じ構造のお話です。現実の世界では余命の短い二人の女性がバーチャルな空間で若い姿のまま出会い、現実では知り得なかった人生を謳歌する。そこには同性愛者婚や安楽死を厳しく取り締まる世の中に対する問題意識も読み取れることでしょう。生命とは「誰」のものなのか。その命を「どう」使うのか。彼女たちの胸をこがす愛は確かにそこに存在し、新たな価値観を通して、あるコミュニティにコミットすることでしあわせを見つける物語。SFが持つ「寛容さ」が、この短編には美しく理想的なかたちで確かにあります。名編。
5話 「虫けら掃討作戦」 (原題:Men Against Fire)
近未来ミリタリーSFですな。『スターシップ・トゥルーパーズ』ほどバカバカしくはなく、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のような気持ちいいエンタメ感もない。いわば戦争や兵士のPTSD問題についてSFという装置を使って表現した『メタルギアソリッド』『虐殺器官』等に近いナイーブな方向性の作品。敵を敵として認識することで銃の発砲率を上げ、より効率的に殺すためのテクノロジー。おぞましく、切実な未来の戦争。オチの悲しさも含め好みでした。
6話 「殺意の追跡」 (原題:Hated in the Nation)
SNSで批判をあびたジャーナリストが殺されるところに端を発し、刑事たちが犯人を追うというサスペンス風の近未来SF。1時間30分と、シリーズの中では最も長尺で見応えがあります。裁判シーンもあるので裁判フェチの方、あるいは聴聞フェチの方にはおすすめですね!(そんなやつあんまおらん)。あと途中でヒッチコックの『鳥』ならぬ『虫』が始まります。まんま言っちゃうと虫が大量に出てくるシーンがあります。こわいよー。なので苦手な人は注意しましょう。SNSの誹謗中傷と、過熱する集合意識。暴走したそれらがドローンミツバチとなって具現化し襲ってくるという「絵」の強さ。いま、このタイミングで起きていることを、すこしだけ先にあるテクノロジーによってわかりやすくして見せる思考実験的な愉悦。『ブラック・ミラー』のテーマは作品によって異なりますが、その中心には「人々の欲望」というものがあると私は思います。その意味でこの作品は、中心となるそのテーマをストレートに味わうことができる作品といえるでしょう。
*
好みはあるでしょうが、各話だいたい安定して面白いです。風刺っぽい話が多く、シーズン3に関しては後味が悪いものだけでなく、前向きでハッピーなものも用意したりとバリエーションが増えているのもいいですね。映像、俳優ともにレベルが高いので、アイデア自体は凡庸だったとしても「絵」として面白い話が多く満足度が高い。藤子・F・不二雄のSF短編が好きなのでこういうのを見てるとニコニコしちゃうなあ。(②に続く)