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『ブラック・ミラー』完全版 ③
シーズン5とシーズン6の感想です。
3話しかありませんがシーズン5は人情味のある話が増えた印象。前シーズンに比べると超近未来、というよりも今このタイミングで起こってもおかしくないような身近に感じられる距離感の話ばかりだったので、そういう意向で作られてたのかなーと思います。うーん、でもちとありきたりな展開が多かったな。特に2話と3話。『ブラック・ミラー』を観ているような視聴者が求めてるものってもっとどぎついSFだと思うので、これじゃあちょっと物足りない。
シーズン5 (2019)
1話 「ストライキング・ヴァイパーズ」 (原題:Striking Vipers)
古い馴染みの友だちとオンラインで格闘ゲームをやったら予想外の事態が起こっちゃってさあ大変、でもふたりともその"事態"にハマってしまい……という展開。本人たちも驚いてたけど観ているこっちもびっくりしたわー。でもセクシャリティについて、オンラインでの恋愛について、夫婦間のセックスレスについて、題材からは思いもしないほど誠実にアプローチしていて、このシリーズの良心的なところ、そしてSFが持つ可能性について考えさせられました。身近な題材同士をつなげ合わせ、あるテーマをわかりやすく提示する。巧いなあ。
2話 「待つ男」 (原題:Smithereens)
やりたいことは分かるし、目の付け所も悪くないのですが、全体的にモタモタしちゃってます。巨大企業の社員を人質に取った男が警察に突き付けた要求とは、そしてその真意とは、という内容。動きが少ない話なのでその分脚本を練り、視点人物を変えることで群像劇っぽくしてますが、そのせいもあってか中心人物である男自身にあまり興味を持てないまま最後まで行っちゃった印象。理由を聞いてもあまりしっくり来なかったし。なにより「SF」度が低いのが不満。もっとサイエンスなフィクションを、スペキュレイティブな物語を!
3話 「アシュリー・トゥー」 (原題:Rachel, Jack and Ashley Too)
人気ポップスター、アシュリー・トゥーをモデルとした小型のロボットが唯一の友だちである内気な少女は、アシュリーの言葉に促されコンテストに出場する。一方、本物のアシュリー・トゥーはアイドルとしての活動に疑問を感じ、その他様々な問題に苦悩していた。
過去のシリーズであった、「人格をAIに転写する」というテクノロジーが使われているので、ある意味でそれらの変奏と言えるのだけど、こちらはとても前向きな方向に話が進んでいきます。いわば協力してくれる”仲間”として。最後はヤケクソ感がありましたが、選曲にせよオチせよ安直にも感じたので、もう少しヒネってほしかったなあ。つうかプロデューサーの意向やなんやで路線を変更したんじゃないかと勘繰ってしまうくらい、過去とは色合いの異なるシーズンだったな。
シーズン6 (2023)
1話 「ジョーンはひどい人」 (原題:Joan Is Awful)
メタメタです。戦慄が走るほどのメタ展開を怒濤の勢いで突っ走る一遍。観ながら笑いと恐怖が同時に来るという希有な体験ができました。いやー、こりゃひどい。
若くして成功を収めた女性ジョーンは人気配信プラットフォーム(どう見てもNetflixです)で自身の生活を元にしたドラマが作られていることを知る。サルマ・ハエックが演じるそのドラマはジョーンの身に起こったあらゆることを逐一配信していくというとんでもない内容だ。しかしそれらは配信サービスの利用規約で許可した内容のため法的にはまったく問題なし。混乱の度合いは話が進むほど増していき、それに伴って彼女の実生活はどんどん悲惨なことになっていく。やがてジョーンとサルマ・ハエックが邂逅し、筒井康隆ばりのメタ的でドタバタな展開を見せていくことに。観ていて「自分もふだんの生活やちょっとした言動をすべてドラマとして世界に配信されたとしたら」なんて想像してしまい、悪寒を覚えました。コメディテイストですが怖いったらないね。しかもこのジョーンのまわりの世界それ自体もひとつの仮想的な作品であり、一部の人たちはそのことをちゃあんと認識していて、一階層上にはまた別の「自分」がいるという……まあとにかくむちゃくちゃです。
アルゴリズムによって規定されたあなたの生活、代用がいくらでもいる自分という存在、利用規約をまったく読まない私たち(笑)、扱ってるテーマが身近すぎて嫌でも感情移入しちゃいます。そしてこんなにぶっ壊れた設定なのに何故か最後はあたたかい気分になるという……いったいなんなんだこの話は。
2話 「ヘンリー湖」 (原題:Loch Henry)
うおぉ……なんつう嫌~な気分になるホラーを作るんだ。
導入は結構ありがちなもので、ドキュメンタリー映画を撮るために田舎町を訪れた若いカップルが、かつてその地で起きた恐ろしい事件の話を聞き、徐々に狂気的な事件に巻き込まれていく……という、まああらすじだけ聞くとありきたりなB級ホラー。ですが、俳優たちの演技力が高く、演出も引き締まっているので見ていられます。何よりラストのどんでん返しというか風刺みたいな展開が実に「ブラック・ミラー」らしい。つまりは「実際起きた殺人事件でさえ私たちはコンテンツとして消費している」ということを描いた作品で、これを観ている私もまた、やっぱりその醜悪さからは逃れられていないというわけだ。SFとしてみるとどうなんだろう、という感じだが、奇妙で後味の悪い話を求めてる人には満足度が高そう。
3話 「ビヨンド・ザ・シー」 (原題:Beyond the Sea)
宇宙で活動するふたりの男デイヴィッドとクリフ、そして地上にいる同様の姿をしたふたりのレプリカ。彼らは交代制の任務において、片方が眠っている間は意識をレプリカに飛ばし地上にいる家族と生活を共にすることが出来る。しかしある日、「レプリカ」という存在そのものを禁忌とみなす集団がデイヴィッドの家に押し入ってきて……。
宇宙における船外活動と、地球での日常風景。このふたつを交互に描きがら持つ者と持たざる者の意識が”どう乖離していくか”を見せてゆく。哀しみや陰鬱さが強く、人間の「業」や「エゴ」を伝えようとする見せ方は、まさしく「ブラック・ミラー」らしいなと感じます。SF的なシチュエーションの面白さもあって、状況を理解してからは、「どうオチを付けるのか」という部分が気になり、引き込まれました。
そして何よりアーロン・ポール!ドラマ『ブレイキング・バッド』以降ほとんど姿を見せなかった彼ですが、久々の登場にアガりました。内容に若干触れることとなりますが、このドラマでアーロン・ポールは一人二役を演じており、それぞれの人物像があまりにも「憑依しすぎ」な状態になっていて、まあすごいなと。作品自体も良かったけど、彼の迫真の演技を見れただけで気分はほっくほくです。
4話 「メイジー・デイ」 (原題:Mazey Day)
40分くらいの作品なので、このシリーズにしては短い方。終盤になるまで話の全体像、というかこのドラマのキモとなる設定がよくわからなかったのだけど、最後まで見てがらりと印象が変わりました。なるほどこりゃ確かに「ブラック・ミラー」だわ。テーマとしてはお金を稼ぐためには倫理や恐怖もすぐ忘れちゃう、人の心が移り変わる早さや軽さを描いてるんでしょうか。こういうミステリーっちっくなホラーもいいですね。
5話 「デーモン79」 (原題:Demon 79)
一応時代は1979年ということになっているらしい。『ブラックミラー』は時代を過去に移すことで、より分かりやすく風刺を描くことがあり、これも歴史改変ものの一種かなーと思って見始めたのだけど、思ってたのと違った。
話はこうだ。靴売り場で働く内気な少女ニーダ。ある日彼女のもとに陽気な悪魔が現れ、「世界を救うため3人の罪人を殺さなくてはならない」と警告される。正直結構初めのうちから、悪魔はニーダだけに見えてる妄想なんだろうなーと思ってた。実際悪魔であるガープのことが見えているのはニーダだけだし、都合よくルールは書きかえられていくし、最後は殺人容疑で逮捕されるって寸法だ。ありがち~。いやでもね、これブラック・ミラーですから。仮に最後に映された世界滅亡の場面がニーダの妄想ではなく、現実なのだとしたら、一気に作品のファンタジー度は上がるだよな。たぶん製作者的には、「どちらでもいい」ように作っているのだと思う。「どちらとも取れる」ではなく。そうすることで、この短編はファンタジーにもミステリーにもブラックジョークにも姿を変える、まさにガープのような「見る側」の観たい現実を映し出す鏡〈ブラック・ミラー〉となる。その点で非常に”らしい”作品だった。だからこの作品は私にとっては「歴史改変もの」なのだ(ええ?)
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以上、『ブラック・ミラー』の〔完全版〕でした。一話完結の短編シリーズのため、話によっては好みが分かれますし、ジャンルや方向性もそれぞれ違うことから、作品の出来にも良し悪しはあります。しかし総じてレベルが高く、SFや風刺の持つ力、面白さをたっぷり味わえるドラマでした。好きな作品は「国家」「殺意の追跡」「サン・ジュニペロ」あたりですかね。いやでも「HANG THE DJ」や「宇宙船カリスター号」「ビヨンド・ザ・シー」も捨てがたい……。
こういうブラックな短編SFは人気が出ないとすぐ打ち切られますし、作る面でも大変でしょうから、これからも応援していきたいと思います。全体のテーマとしては「人の欲望」や「現実の虚ろさ」、「テクノロジーと社会」あたりなのかなと。いやー、やっぱり面白いなあ。私の大好きなドラマです。
というわけで書き終わったのですが、〈ブラック・ミラーを見守る会(仮称)〉の方には満足いただけたのでしょうか。好き勝手に書いてるからもしかしたら怒られないかちょっと心配だ。まあ杞憂でしょ杞憂。
おや?誰か来たようだ