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【小説】神社の娘(第39話 村人、妖物と係長に恐怖する)

「今日は曇りときどき雨、だけど過ごしやすい気温。絶好の駆除日和ですね!」

 若者を中心とした集団の先頭に立つ、三宮伊吹の爽やかな声が山の中にこだまする。

 曇り空を吹き飛ばして、青空にしてくれそうな伊吹の一声。これが登山やハイキングであれば頼もしいかぎりだが、これから集団が向かう先には―

 土佐犬型の妖物がいた。通常の3倍はあろう体躯、異常に大きな犬歯、いや牙、呼吸の激しさもよだれも3倍。爪が触れただけでも、一瞬で殺されそうだ。

 本日は休日を利用した妖物の駆除見学会だ。会といえば楽しそうだが、実際は命の危険もある仕事を間近で見て、しかもこの後に待っているのは「君たちも駆除してみよう!」のコーナー。さすがに、いきなりこの土佐犬のようなB以上レベルの妖物を当てるわけにはいかないので、C以下レベルの妖物が出たらだ。

「私たちにこんな恐ろしい怪物、倒せるの?」

「げ、スライドで見たやつってほんとだったんだ」

「死んじゃうよこれ」

 高校生以上の学生有術者、普段妖物に対峙することのない若手の社会人有術者たちは口々に言う。具合が悪く座り込んでしまった者もいる。

 恐ろしくて泣き出してしまった女性もいるが、それは今日の感知係である課長の娘である。普段は隣町の中小企業の事務員として働き、感知能力は稽古で使った程度。けれど、父譲りの才能で、なかなかに詳しく感知していた。

「帰りたいよーお父さんのばかあー!」

 自身は絶対現場に足を踏み入れないというのに、娘は勉強と称して送り込む課長。娘からの評価は元々マイナスの上、さらにマイナスになった。ちなみに彼女は1感知につき握り寿司10貫分のカロリーを消費するらしい。

 多くが恐怖におののく中、一宮桜だけは冷静であった。彼女はこれより強大な鬼のようなバケモノと出会っているし、この程度で弱気になっていたら悪神と対峙できない。

 おそらく、お伝え様の大事な跡取り娘に、駆除の当番が回ってくることはない。この見学会も父から「行く必要はない」と言われた。それでも、自分が引き起こしたかもしれない現状や向日葵たちの仕事を見ておきたかったのだ。

 この妖物を駆除するのは野生動物対策課の係長・三宮伊吹、支援に二宮蓮。見学者の保護には、二宮樹と一宮あさひ、そして自然環境課の2名があたっている。

 蓮は土佐犬に素早く近づき、そして一瞬で離れて走り始めた。すると土佐犬はそれと並行して走り始める。彼は自分の気を相手に送り込んで誘導するという有術を持つのだ。一度、対象の気の流れや乱れを把握するために近づかねばならず、この能力に関しては、足が速く軽い体の方が有利であった。向日葵の能力も似たようなことが言えるけれど、彼女の能力の場合は妖物に近づくことが重要なため、襲われても対応できる体と力が必要だった。

 伊吹は土佐犬の後ろを追いかける。

 蓮は「伊吹さん!」そう呼びかけ立ち止まる。土佐犬も連動するように静止した。伊吹は踏み込んで回転し、日本刀を右から切り上げる形で、土佐犬の胴を狙った。青緑色の閃光とともに刃は胴に入ったが、土佐犬は後ろに飛びのいて刃を体から抜いた。

 妖物が一声吠え、伊吹に飛び掛かった。牙の先が伊吹の手首に触れた。

 そのまま食われるかという瞬間に彼は土佐犬の下を潜り抜け、反対側に抜けたが、牙は伊吹の手首から肘にかけて骨が見えそうなほど肉を深く裂いていた。真っ赤になった右腕に、見学者たちから小さな悲鳴が聞こえた。

 蓮がまた妖物に近づき、次は走り出さずに土下座をした。すると妖物も土下座の格好になり、伊吹は飛び上がって首と胴を切り離した。

 それでも体はぴくりと動き始めた。蓮の能力は切れかかっており、伊吹は急いで腹も真っ二つにした。ようやく妖物は溶けていった。

 蓮としては、一か八かの賭け技であった。妖物が彼の実力を凌駕するようなレベルであれば効き目がない。先ほど走って誘導できたことからそれはないとしても、蓮が相手に気を送り込むのが遅ければ、襲われる可能性が高かった。

 伊吹はふうーっと深呼吸し、土下座したままの蓮に声をかける。

「倒したから、もう謝らなくいいぞ!」

 蓮は急いで立ち上がった。

「伊吹さん、腕」

 普段とは正反対の厳しい視線と低く固い声で、伊吹は部下に命令した。

「今日は何があっても『平気』な顔をしていろ」

 上司の意図を理解した蓮は、即座に軽口を叩く。

「……はー屈辱! これだけは絶対やりたくなかったのに! めちゃくちゃ疲れましたよ、焼肉おごってくださーい」

「すまんな。でも君のおかげで駆除もでき、見学者も守れた。相変わらず素晴らしいよ蓮君! 焼肉は小遣いが残ったらな!」

 まさにスポーツマンといった爽やかさと熱いハートを持つ伊吹は、見学者たちに雲一つない夏空と青い海を思わせる声で投げかける。

「我々の駆除業務は、日々このように行っています。ご意見ご感想、ご質問等があればぜひ!!」

 みな沈黙し、感想ひとつ出る雰囲気はない。大人たちまでも、恐怖で圧倒されてしまっている。

「我々も、この間までこんな強い妖物を相手にしたことはありませんでした。ねずみやウサギ、かわいい程度の犬を相手にしていたのです。ご存じのように、このような怪物を相手にするようになったのは最近。しかし」伊吹は日本刀を鞘におさめ、腕を真っ赤にしながら身振り手振りを加えて演説を続ける。「幼少からの鍛練のおかげで、私たちはこうして難なく戦えております。みなさまも幼少より鍛えておられますから、最初は若干の恐怖はあるでしょうが、思いの外できるものです」

 伊吹は見学に来ている三宮青葉を見た。

「そうだ! ほら、私、今ケガしてますよね。血が止まらない!あはは!」

 妖物も恐怖映画から抜け出たように非日常であったが、骨が見えそうなほど肉を裂かれて無邪気に笑う彼もさながらサイコ映画の登場人物のようだった。参加者のほとんどは引いている。これには桜も、おかしな人だとおもってしまった。誰かが「レクター博士…」「それ殺す方」「殺してる…」と呟いていた。

「でも、本日は三宮青葉先生もいらっしゃいますから、すぐ治療してもらえるんです。治療お願いできますか?」

 青葉は前に歩み出て、その場で伊吹を治療した。1分ほどで傷口も血も消えた。

「おお! 魔法のようだ! 頼もしいですね。さあ、次は皆さまで駆除しましょう。我々がサポートしますから安心してください! 怪我をしても大丈夫! 思い切り動きましょう!」

 安心できるわけがない。

 有術者とはいえ、普段は平穏に過ごす参加者たち。見たこともない怪物を目にしただけでなく、伊吹の怪我まで目撃してしまった。普通ならば病院で治療するような負傷だ。バケモノを相手に死闘し、そして怪我まで負ってあのまま笑顔でしゃべり続けた彼は、参加者から見れば異常者にほかならなかった。

 妖物を駆除するというのは、一種、異常にならねばならないのかもしれない。参加者たちは本当に自分たちに彼らのような働きができるのか、不安でいっぱいになった。

 補足すれば、他の職員では伊吹のような対応はできない。今回のような怪我をすれば、真っ先に治療に向かい、治癒してから参加者に説明する。

 伊吹は常に元気で爽やか。そういう人間だからこそ、課長はこの場を彼に任せた。どんなことがあっても深刻にならないように、場を明るくすることに努められる。伊吹も自分の役目はよくわかっており、腕の痛みに耐えながらの演説だった。蓮と間近で治療した青葉だけが、彼の額と生え際にたまる脂汗、そして辛そうな呼吸に気付いた。

◇◇◇◇◇ 

 参加者たちが恐れる、「その時」がやってきた。

 土佐犬駆除の1時間後、課長の娘が感知したのだ。今度の妖物は先ほどよりは可愛げのある、ちょっと大きな猪タイプたちが2匹。見た目もだが、娘曰く、D程度のレベルだろうとのこと。一般有術者も稽古の一環で遭遇した可能性があるレベルだ。

 参加者たちは、事前に割り振られた5人組で駆除に当たった。桜は意図的にグループから外されており、次の回があったとしても、駆除にあたることはない。それは参加者全員が暗黙の裡に理解していた。

 やはり始めは皆びくびくし、襲い掛かって来た猪に逃げまどっていた。しかし一人が勇気ある行動を起こすと、それに引っ張られ、続けとばかりに自身の能力を使い始めた。

 日ごろの鍛錬の成果を発揮しようと奮闘するも、それぞれの動きがかみ合わない。

 前髪をぱっつり切ったおかっぱの一宮あさひが凛とした声で、「チームワーク、チームワークですよ! どう動けば、攻むの人がとどめをさせるか考えてくださいねー。頑張ってくださーい!」アドバイスと声援を送る。

 だんだん連携の取り方が分かって来た面々は、声を掛け合い始めた。

 すると、樹と同じ能力を持つ背の高い高校生が、猪を静止させた。わずかな機会を狙って、同じく高校生の三宮柏が、青緑色の閃光とともに妖物の胴体に日本刀を切り下した。

 もう一匹の猪タイプは30代前半の社会人が駆除した。参加者たちは「意外とできた」「私でもやれるんだ」など、この成功体験に興奮していた。

 初めて妖物を駆除した柏は誰よりもワクワクしており、自分の力は意外と使えることが実証され、自信が湧いてきた。

 その隣にあさひがすっとやってきて、柏の耳元に話しかける。

「柏君、意外と筋がいいね。この調子で頑張って」

「は、はい」

 久しぶりにあさひに話しかけられた柏は、魅惑的な声にわずかに耳と頬を染める。

「あさひさんって、神秘的な感じで素敵だよね~」自然環境課の若い女性職員が羨ましそうに言う。

「確かに。不思議な雰囲気だし」

「クールな葵さんも目の保養だけど、私は断然、中性的でミステリアスなあさひさんなのよね。神秘性大事よ!」

「あのひと女性でしょ?葵さんと比べるのは」

「え、男子でしょ?」

 二人は目を合わせながら首を傾げた。

「どっちでもいいんじゃないか。魅力的ならさ~」

 青葉はそうコメントし、二人の横をさっと通り抜けていった。 

◇◇◇◇◇

 その後も続々と妖物が出てきてくれたおかげで、見学会と体験会は大盛況のうちに終了した。参加者たちは自信を持てたようで、解散場所の役場の駐車場でも「大丈夫そう」「稽古って意外と役に立っているんだな」などの感想が飛び交っていた。

 課員たちは報告の打ち込みや駆除道具の片づけ等のため、役場へ入っていった。

「うん、やっぱり普段みんな鍛えてるから、筋が良かったな。これなら一緒に駆除できるんじゃないか」

 課長に報告メールを打つ伊吹が、楽観的に今日の会を評した。

「イブっちはそういうけど、僕はちょっと心配な人いた。そういう人はあんまり参加させないほうが良い気もするんだけど」

「そんなことも言ってられないだろ、樹ちゃん。このままだと過重労働で死んでしまうからね、オレらが。振休ないし、有休使える雰囲気ないし。使えるものはガキでも老人でも使っていかないと」

 蓮のぶっきらぼうな物言いに、樹はあきれた。

「レンレンったら~分かるけどね、言い方、言い方あるでしょ」

「分かったらだめだろ樹ちゃん、村民を守るのが我々の仕事なのに!」

「課長なんてそのつもり満々じゃないか。自分の父親と娘さんまでこき使って、今頃街のサウナでも行ってるんだよ。あーくそ、これからサウナ行こ」

「いいね、サウナ! そうだ、今度、動対課男子全員でサウナ行こうよ。ねえ、あさひ君も裸の付き合い」

 伊吹があさひの席の方に声をかけると、そこはもぬけの殻だった。片づけを済ませたあさひはすでに帰宅しており、姿はなかった。

「あさちゃん女子よ。係長がセクハラでーす! 奥さんに言っちゃお~」

「男子だろ。まだ彼の歓迎会もしてないし、サウナで歓迎会もいいだろ」

 蓮が「巫女姿でお伝え様のところにいたけど」、樹が「たまにスカート履いてるじゃない」情報を加える。

「何っ!? どっちだ!? 男装女子か女装男子か!? 歓迎会はサウナじゃないほうがいいか!?」

「そーいや、昔からよくわからない子だったな。アイツの性別なんてどちらでもいいわ。サウナ行ってきます」

「かかりちょー、サウナで歓迎会はないとおもいまーす」

 蓮と樹はそう言い残し、役場を後にした。

◇◇◇◇◇

 一般有術者が駆除の見学をしていた頃のこと。葵にまんまと誘導された向日葵は、ジャージを受け取りに朝10時に古民家へ……。

 は、行かなかった。

 葵から受け渡し場所に指定されたのは、車で3時間ほどの海水浴場だった。意味が分からず抵抗したが「来ないなら職場で、席で、渡す」と電話でおどされ、しぶしぶやってきた。職場よりは寂しい地方の海辺の方が、人の目が少なく安心と言えた。

 夏は満車になる海水浴場目の前の駐車場も、3月後半はがらがらだ。駐車されている数台の車の中から、向日葵はすぐに葵の車を見つけることができた。近寄ってみたが、車の中には誰もいない。

「えー、どこ行ったのかな?トイレ?」

 向日葵は底の丸い小さめのピンクのハンドバックからスマホを取りだした。 

 すると、目の前の海岸から葵がやってきた。

「おはよう。こんちはか」

「オハヨーでもコンニチハでもないよ。なんで海?」

「ジャージが渡せればどこでもいいじゃないか」

 彼の真意がわかりかねる向日葵は、それ以上場所については追及せず「ジャージ洗ってくれてありがとう」そう言い手を出した。

 葵はその手を取り、歩き出した。

「違う違う!」向日葵は手を振りほどく。「ジャージを渡してって意味だよーわかるでしょ」

「今日一日、俺に付き合ってくれたら渡す」

「なんでよお!?」

「俺に吐いたの2回目だろ。悪いと思ってるなら、罪滅ぼしだと思って遊んでくれ」

 そう言われてしまうと、彼女も反論できなかった。確かに2回も彼に向かって吐いておいて、朝ご飯を作っただけというのも罪滅ぼしとしては軽すぎるかもしれない。着替えや洗濯までしてもらったのだ。

「さすがにこの時期、村の連中はいないだろ。夏なら遊んでるかもしれないけど」

「……せめてちょっとくらい変装してよお。帽子被るとか」

「なんでだよ。犯罪者か」

「犯罪者っていうか芸能人? いつまで経っても自覚ないけど、目立つんだよ葵は。だからめちゃくちゃ気を付けなきゃいけないってのに」

「金髪に言われてもなあ」

「今日は隠してる!」

 知り合いに遭遇しても一目で見抜かれないよう、向日葵は念のために黒のキャスケットを被り、髪の毛をできる限り収納している。さらに、メイクはファンデーションのみにし、ウェリントンの真っ黒なサングラスを掛けて顔を隠した。服装も黒のテーパードパンツに白のカットソー、黒のテーラードジャケットと、いつもの派手色は封印し、職場服を使いモノトーンでまとめた。

 葵と言えば、いつものボストンメガネに細身の黒デニム、オフホワイトのコットンシャツ、カーキのMA-1。隠れるつもりはいっさいないスタイルだった。

 ゆっくりと歩き出した葵に、向日葵は仕方なくついていった。

 犬の散歩をする老夫婦とすれ違ったほかは、白い曇り空の下で数名のサーファーが荒い波に挑戦しているだけの景色だ。

 向日葵はずっと葵の後ろを歩き、隣に並ぼうとしない。葵から彼女の隣へ並び、話しかけた。

「何もないのに出かけようって言っても、来なかったよな」

「そりゃそうだよ」

「ゲロに感謝だな」

「ふ、二人になりたいだけならさー、別に家でご飯だっていいじゃん」

「だって、向日葵と二人で出かけたことないから。どっかに行ってみたかったんだよ」

 彼らはこれまで、二人きりになったことはある。けれど、二人で遊びに行ったことはない。

 出かけるときには常に桜や菊、友人らがいた。

「本当はバイクがよかったけど」

「バイク?」

「橘平君が免許取ったら、海行くって話してたから」

 4人で円形の森へ入った日のことだ。桜がバイクに乗れると知った橘平と向日葵は、こう話していた。

 

『へーかっけー。外の高校だもんな。俺もバイク取ろうかな』

『わーい、取ったら乗せて!海いこーぜ!』

『いいっすね海、ぜひ行きましょ』

「あれか!はいはい、そんな話したわ~」

「それもあるし、まあまあ近場で、村の人がいなさそうな場所ってことで」

「いちおー、考えてくれたんだね」

「それはな。向日葵だけじゃない、桜さんのためにも」

 向日葵はキャスケットを外し、葵の頭に載せた。

「なんで」

「せめてものへんそー。桜ちゃんを思うのならね。ホントはサングラスもかけたいけど無理だからなー」

 一つむすびの金髪を解き、向日葵はお団子にまとめた。

 

 海岸の端の方まで歩いた二人は、街の方へ入り、近くのコンビニでマスクとドリップマシンのホットコーヒーを買った。向日葵はブラックにコーヒーフレッシュ、葵はカフェラテを購入した。

 マスクは葵の変装用。店を出てすぐ、向日葵は葵にコーヒーを持たせ、マスクを着けてあげた。

 コーヒー蓋のタブを起こすと、飲み口からつんと苦みのある香りが漂う。村のコンビニにはない味を楽しみながらまた海辺を歩き、彼らは駐車場へ戻った。

 その後は近場にあった海の見える海鮮食堂でお昼を食べたり、車で少し離れた水族館にも行ったりと、休日を満喫したのだった。

◇◇◇◇◇

 向日葵は水族館の駐車場で、本日の目的である「ジャージ」をやっと渡してもらえた。

「ありがとう」

 受け取った紙袋を、向日葵はピンク軽の後ろの席に積んだ。

「こっちこそ、一日付き合ってくれて」そう言い、葵はキャスケットを向日葵の頭に被せ、マスクを取った。

「ううん。楽しかったよ。村の人の目を気にしないっていいね」

「『なゐ』が消滅すれば、もっと人目なんて気にしなくてすむ。明日、いい話が聞けるといいな」

 葵は向日葵のサングラスを取り顔を近づけたが、彼女は葵の鼻をつまんだ。

「橘平ちゃんの有術、今日は『ない』です」

 葵は向日葵の手を退かし「いや、俺は書いてもらったんだよ」

「いつ?」

「躰道の稽古の後」

「信じらんなーい、ばいばい」

  葵の手からサングラスを奪い、向日葵は車に乗り込んだ。

 彼女の車が走り出したのを見届けた葵は「きっぺーの役立たず!」ひとり勝手に、橘平に八つ当たりするのであった。


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