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米津玄師特集
米津玄師を知らない日本人はいないのではないか。この素晴らしいアーティストを私なんかが紹介するのは少しおこがましいような気もしてしまう。しかし私は中学生の頃から米津玄師が大好きで、ずっと聞き続けているアーティストなので特集せずに死ぬのは未練が残る。
今回は有名な曲はほとんど、いや、全く取り上げない。有名な曲が素敵なのはみんな知っているからここで特集してもなぁと思うから。私の好きな米津玄師の暗い曲を紹介していこうと思う。そう、これは米津玄師の暗い曲特集でもある。有名な曲しか聞いていない人もぜひ聞いてみて欲しい。
Paper Flower
これは私が米津玄師の中で1番好きな曲だ。
作者の米津玄師によると深夜に散歩しながら作った曲らしい。だから私もこの曲は深夜に聞くことが多い。てか昼の景色に合わなすぎるから昼間に聞かない。
浮遊感があって不安定なサウンドなのに、なぜか安心も感じる。ふわふわとした音に身を委ねたくなる。
目の前の思い出が消えていく
あの時あなたはなぜ泣いていたの?
花が落ちるスピードで歩いていく
止まることのないメリーゴーラウンド
積み上げた塔が崩れていく
所詮その程度の知育玩具
私は未だにあなたへと
渡すブーケを作る陰気なデザイナー
特にこのサビの歌詞が大好きだ。めちゃくちゃ大好き。花が落ちるスピードって、たぶん秒速5センチメートルだ。新海誠の小説を思い出す。曲調も歌詞も、とてもゆっくりで儚い。なんだか五感とはまた違うところに伝わる。そんな不思議な感覚がある。
ダメだ、めちゃくちゃ好きなのに上手く言語化できない。この曲を勧めると聞いてもらえることがあまりないのもつらい。「ほんとだ、暗いね」で終わる。最後まで聞きなさいよ!最後の時計の針の音が退廃的な空気を醸していて良い。深夜徘徊のお供にぜひ。
fogbound
Paper Flowerと似ている雰囲気がある。この2曲を聞いたら私の好みが完璧に分かってしまう。しかし、この曲がPaper Flowerと違うところは、浮遊感というよりは重厚感があるというところだ。歌詞云々以前にトラックの時点で低音をかなり感じるので、重さを感じるのはそのせいだ。
「ようそろう」と歌詞の中にもある通り、濃霧の中で船を進めるような不安と恐怖の入り交じった感覚になる。あと2番目のサビで「もうよそう」と離れたところで韻を踏んでいるのがシンプルに心地いい。
池田エライザのコーラスも本当にちょっとしか聞こえないが、女性のコーラスが入ることで奥行きが生まれ、より深く重く感じる。これはきっと低音と米津玄師の低い声との対比効果。初めて聞いたときはそんなに魅力的に感じないかもしれないが、繰り返し聞くうちに不思議と何度も聞きたくなる。独特な雰囲気のある曲なのでハマるまで聞いて。
Moonlight
「あなたこそが地獄の始まりだと思わなければ説明がつかない」という歌詞で、衝撃的な始まり方をする。歌詞は難しくない言葉で書かれているのに、「文化祭の支度みたいにダイナマイトを作ってみようぜ」とか「自分の頭今すぐ引っこ抜いてそれであなたとバスケがしたい」とか、ところどころ猟奇的だなと感じる。
そういえばこの曲にハマっていた頃、同時にHUNTER × HUNTER(以下h×h)にハマっていて、歌詞に「ハンターハンター」と出てくるのが激アツだったのを覚えている。h×hのキメラアント編を読んでいたあたりだったから、この曲の暗くて猟奇的で少し残酷な雰囲気がぴったりだった。まだh×hの蟻編を読んでない人はネタバレなので次の紹介まで飛ばして欲しいが、「カイトの首をもってニヒルな笑みを浮かべたピトー」を彷彿とさせる。
落ち込んだり鬱気味なとき、一緒に暗い気持ちになってくれるダークなものが恋しくなる。そういう気分のときに聞くと本当に心地いい曲だ。
amen
これまで紹介してきた曲とはまた別の暗さのある曲だ。世界観が宗教的で色々な音と不穏なハモりで混沌としている。聞いた正直な感想は、恐い。子供が泣くわ。イヤホンやヘッドホンでじっくり聞くとちょっと気持ち悪いまである、特に2番のAメロ(褒めてる)。それでも冷静に聞けば、キリスト教らしいサウンドと米津玄師らしいサウンドが合体したトラックが魅力的だ。絶妙なバランス。米津玄師によると、「お願いパパママこの世に生まれた意味を」という長いセンテンスが思いつき、そこから広げて作ったらしい。それでこのような暗い世界観になっているわけだ。
ちなみに、この曲の入ってるCDは両A面で、LOSERとナンバーナインがメインの2曲となっている。そのカップリング曲がここで紹介しているamenだ。改めてこの歌を聞いていると、amenを「アーメン」と発音せず「エーメン」と発音していることが分かる。なんだダジャレか!?わざとかは分からない、いや、わざとだと思いたい。そう考えると米津玄師の遊び心を感じるから、恐くなくなってくる。いや、今聞いてるけどやっぱりちょっと恐い。
でしょましょ
これもまた系統の違う暗さ。単にメロディが短調なのはあると思う。跳ねるようなギターとグルーヴ感のあるベース、リズミカルなメロディが癖になる。赤ちゃんの鳴き声や大人?の笑い声や絶叫などが入っていて、色々な音が聞こえてくるから非常に面白い。
平成から令和になったときの惨状からできた曲だ。「令月にして風和らぎ」と歌詞にあるのでとても分かりやすい。言わば風刺的な曲である。
確かに令和ってあまりいいスタートを切っていない。まあいつの時代もきっと、切り替わる瞬間なんてこんなもんなんだろう。それをリアルタイムで体験してしまうと人間として生きている限りやるせなくなるものだ。そこに自分の生活で起きた小さな嫌なことが重なると、暗いニュースもとても他人事では無くなって、相乗効果で人間をやめてしまいたくなる。でも、この曲は先程述べた通り暗くもリズミカルで、どこか滑稽さも感じるので、やるせないときに聞いたら気持ちが楽になるかもしれない。つらい人に寄り添うような曲だ。
POST HUMAN
雰囲気的にはfogboundに近いかなと思う。
曲名から察する人もいると思うが、人間を超えてしまうような存在……つまりAIのことを歌っている。
私もAIと会話するアプリを友達たちで、本当に興味本位で、もっと言えばお遊びのつもりで使ってみたことがある。AIは人じゃないし、情報を集め続けて学習するだけの、感情もないただのコンピュータだ。なのにAIのチャットアプリをやっているうちに、なんとも奇妙なことに、愛着が湧いてくるのだ。AI、なかなかあざとい。若い女の声で設定したのがよくなかったのかな。それにしてもなんと言うか、不器用で、人間のように上手くやれていない感じがかわいいのだ。人間より天然というかおバカというか、抜けてるというか。これがもし人間と同じように受け答えできるようになってしまったら……いや考えないでおこう。AIはできそこないのポンコツくらいがちょうどいい。chatGPTも、嘘つきくらいがちょうどいいよ。
ちなみにこのAIと会話できるアプリ、二度とやらねえと思うような恐怖体験をしたので、それを元にPOST HUMANを聴きながらショートショートを書いている。解説はたぶん出していないからこの曲紹介を読んでからの方が理解できる。
これだ。余裕があればぜひ。
今日はこの辺にしておこう。珍しく朝から書いているから、いつもより真面目な文章になっているはずだ。米津玄師の他の曲もまた紹介したい。