わたしゃあなたのそばよりも 信州信濃の蕎麦がいい
軽井沢に似合う食事ってなんだろう?
フレンチ? イタリアン? カフェ? いずれにしても洋風な印象が強い。実際、人口わずか2万人のこの町には、フランス料理店が60軒、イタリア料理店は40軒、そしてカフェに至っては230軒以上もあるのだそうだ。人口あたりの洋食店比率でいくと、おそらく日本屈指なんじゃないだろうか。ひょっとしたら世界屈指かもしれない。
ちなみに、食いしん坊の僕たちがこの町にやってきてから、かれこれ3年経つけれど、腰掛けるときにそっと椅子を押してくれるようなお店には、一度も入ったことがない。今後もそういうグルメレポートは書かないし、書けないから、そこのところはあんまり期待しないでほしい。
やっぱり蕎麦かな
ここは信州、蕎麦どころである。幹線道路からちょっと入れば、あちこちに蕎麦畑が広がっているし、もちろん、おいしそうなお蕎麦屋さんもそこここにある。
しかし、実は、僕はそんなに蕎麦が好きではない。いや、決して嫌いではないのだけれど、だって、お蕎麦って食べてもすぐお腹が空いちゃうでしょう? もし、駅前の商店街に「富士そば」と「日高屋」と「吉野家」が並んでいたら、中華か牛丼か、どちらにするか迷ってから、僕は日高屋に入るだろう。日高屋にしておけば、丼ものだって選べる。あと、ビールだけじゃなくて、ハイボールやホッピーもある。
いや、話はそこじゃない。かたや、アイコ先生、蕎麦好きである。挽いたり、打ったりするほどじゃないけど、道の駅に寄ると、たいてい地産の蕎麦を買っているし、お昼には、自宅でも外でもよく蕎麦を食べる。僕とアイコ先生が、さっきの駅前の商店街にいたら、ふたりで富士そばに入って、アイコ先生は天ぷら蕎麦をたのみ、僕はカツ丼を注文するだろう。
こんなに蕎麦がうまい浅間のふもとにゐる
山頭火もめずらしく、なんだか肯定感いっぱいの句を詠んでいる。よっぽどうまかったのだろう。
お蕎麦なら値段もそんなに高くはないし、せっかく信州に来たのだから、ここいらの蕎麦屋を順に尋ねてみようということになった。
毎日、蕎麦屋で外食というわけには、金銭的にも食欲的にもいかないから、「ときどき」という程度に2年ほどかけて、簡単に行ける範囲でいろんな蕎麦屋を回った。
小諸城址の駐車場からすぐの「草笛」
中軽井沢駅前の老舗「かぎもとや」
御代田、雪窓公園向かいの「浅間翁」
追分宿の人気店「ささくら」
水と塩で食す佐久の「磊庵(らいあん)はぎわら」
御代田、普賢山落近くの「地粉や」
上田城跡そばの「千本桜」
軽井沢好きの叔母がすすめてくれた「満留井」
ちょっと足をのばして、高遠(たかとお)の「入野家」
ここに来て最初に行った長倉の「ひょうろく」
幾多の蕎麦職人を育てたという「きこり」
浅間サンラインの「香りや」
国道18号沿い、旧中山道と交わるあたり「追分そば茶屋」
平原のセルフ蕎麦「なごみや」
と、まあ、なんだかんだでアイコ先生に引き回されるているうちに、「今日は、お蕎麦が食べたいなあ」なんて、週に一度くらいは思うようになってきた。「コシが、出汁が、十割が、八割が」だなんて、ソバオヤジの域には達していないし、なりたくもないけど、浅間山麓の水と空気のおかげだろう、おいしさ五割増しで、お蕎麦がいただけている。山頭火の句の味わいも増すというものだ。
そうそう、実は、軽井沢「ひょうろく」よりも先に行った蕎麦屋で、すごく安くておいしいところがあったのを思い出した。軽井沢駅の中にある、あの、釜飯で有名な「おぎのや」だ。かけそば一杯380円なり。軽井沢にいらしたら、カフェもいいけど、お蕎麦もいいですよ。
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