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たまねぎ備忘録(2)

買い物したあと、買った野菜の葉っぱのちぎれたのが車内に落ちていたりすることがある。
後部座席の足元、助手席の下に、にょろっと見えているこのネギみたいな一本もきっとそうだ、あとで帰宅時に拾えばいいや……と思っていた。

で、駐車してから、後部座席のドアを開ける。
ネギのものと思しき一本をつまんだ。

「え?」

とれない。引っ掛かりを感じる。
思い切りひっぱったら、ちぎれた。

んん?――ちぎれるとは? 

まさかと思い、あわてて助手席下をのぞき込むと、そのまさか!
たまねぎだ。

「うわ、一個転げていたのか……」

思わず声に出してしまった。
箱にきちんとおさまっていたはずなのに、何かの拍子でか転げてしまったんだな。

引っ張り出してみてみると、目に見えたところよりだいぶ長い。
助手席の下から、後部座席のところに伸びてきて見えたのが、一本だけだったことがよほど不思議に思えるくらい。

だいぶよくのびのびしている……

これはなかなか……と思いつつ、とりあえず部屋に持ち戻る。
割って中を見てみたい。
もはや食べられるレベルでいてくれるとは思わなかったが、いちおうどのくらい養分をとられているのか知りたい。

と思って、まな板でざくっと半分に。

想像してはいたけれど、なるほどな断面

みずみずしいみどりの芽(もはや芽とは言えないか)と対照的に、水分がすっかり抜かれたミイラのような実。
ここまで放置したのはさすがに初めてである。

なるほど。
いや、何がなるほどなのかわからないが、ともかく、変な腑の落ち方をしてしまう。

いやはや、ごめん…………。
なんとも申し訳なくもったいないことをしてしまった。

知らぬうちに、しばらくずっと一緒に通勤ドライブしていたんだね。
ひそやかにのびのびと、しかし主張することなく助手席(下だけど)におさまって。

「ごめんなさい」

深く深くたまねぎに謝罪をしてお別れしてしまったが、どうだったんだろう。
芽だけでも使えばよかったか?
あるいは、土に植えてみればよかったのだろうか。

そうだ、土に植えてみてもよかったのだ。
このままでは食せないということでは同じなのだから、試してみればよかった。
失敗した。

今さら思いついたことで、この断面画像のたまねぎにあらためて深くお詫びを申し上げる。

「ああ、ああ、ほんとうにごめんなさい」

命はたいせつにしなければならないものなのだから。


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