見出し画像

一夜目・学戦パーシヴァルDream in dreaming

確かロンドンの古書通りで買ったあの本だ、何故か心地よい木の香りがする本だった。

うとうとと眠っている内、おれさまは何故か心地よい椅子にひとりきり座っている。誰かが置き忘れたか、また親切な領民達が有志で置いていくキャンピングチェアに似ている。
目の前にはぼうぼうとつまらない草原が広がっている。いや、違う!思わず、おれさまは立ち上がった。
騎士達が馬で駆け、剣が血に軋む嫌な音、長弓の矢が雨あられと振る戦場、先祖たちの景色が何故目の前にあるのだ!?
イングランド北部、ノーサンバランド国立公園。かつてホミルドンヒルと呼ばれた戦場の草原。
今は14世紀の騎士達がイングランドとスコットランドの領土をかけて争う草原、戦場だというのに誰もおれさまに気づかないのか?
「遅かったじゃないか」
よく似た巻き毛にやや華奢だがしっかりした身体と、猫背のまま剣を持つ手……おれさまと同じパーシー家、しかしその紋章は英雄と謳われた中世の先祖ヘンリー・パーシー通称「ホットスパー」のしるしを纏う青年が、おれさまをにらんでいる。
「使者じゃないな?おまえも同じパーシー家の騎士か!」
ホットスパーはおれさまのジャケットの紋章を見ると、急に砕けた笑顔になる。ジャケットには確かにパーシー家のおれさまの紋章が付いている。どう答えたら分からず黙っていても、ホットスパーはお構い無しに話し続ける。
「おまえ、トマス叔父上にそっくりの美人だな!いや、その美貌は叔父上の子以外にありえない!親父はラルフ・ネヴィルとかいう奴だ!はははは!後暗い事もありゃしない、同じ騎士の子だってのに!まあ親父様がラルフではな、父上に言う機会を図っておまえさんを隠してたのかな?いい機会だ、うちに来いよ!叔父上トマス・パーシーの子が日陰者でいたら、このおれが許さない!
おまえ、名前は?」
「…パーシヴァル」
ホットスパーはきょとんとした顔になる。
「パーシヴァル!?パーシヴァルって、フランス人の吟遊詩人がうたうあの'ペルスヴァル'のパーシヴァル?聖杯持ってるやつ?それは隠すよなあ!ははは!」
会話の隙を狙う様に入ってきたスコットランド兵士をおれさまは槍で盾になり、すかさずホットスパーが剣で叩きつけるように薙ぎ払う。
「これで餌食だぜ!おおーい!ちょっとランスをなくしちまって、おまえごと借りるぞ、ペルスヴァル!」
再び長弓の矢の雨が降り注ぎ、ホットスパーは主を失くした適当な馬を慣れた手つきで引いてくる。そして馬に跨り、子供でも拾う様におれさまの首根っこを掴んで乗せた。
「まさか馬上槍を知らないと言うなよ!?」
「戦場は、知らぬよ。その、トーナメント経験はある」
 「なら十分だ!しっかり蹴散らせ!聖ジョージの為に!」
「…エスペランス(希望あれ)」
おれさまが言うと声が小さいと怒られた。まるで気のいいきょうだいの様なホットスパーが駆る軍馬にのり、おれさまは白亜の槍を馬に合わせて突く。槍で騎兵をやると一撃でも岩にぶつかるみたいに重く、ふらつく片手をホットスパーが強く握った。
「しっかりしろ!パーシヴァル!力を入れすぎだ!馬の速さに合わせて流れで突き上げろ!」
「無茶だ、おれさまは」
「パーシー家の騎士だろう!?このおれが初陣を見届けてやる!」
不思議な人だ。ホットスパーに言われると元気が戻る気がしてしまう。いつかの騎士や兵士たちもこうやって勇気を貰い、駆けたんだろう!
何度も的を外しても、ホットスパーは怒らない。もう一度!そう言って馬を駆る。
槍で突き上げる兵士たちの命の重さすらホットスパーが代わりに持ってくれる、何故か涙がこぼれた。
いつか年代記や家族の記録を見て、ホットスパーや彼の言う「叔父上」女性騎士だったらしい彼らと空想の中で遊んでばかりの日々を思い出す。
今は夢でも本物の夢に出来る!おれさまの高揚に呼び応える白亜の槍が光を帯びて力を増す。すると槍の力でホットスパーは手傷が治癒されたらしい。
「聖杯が実在した!シチュー鍋じゃない!パーシー家の聖杯だ!シチュー早く食べようなあ!」
あのホットスパーと一緒に軍馬で駆けてゆく。夢に見た騎士と駆けてゆく。
「叔父上!トマス叔父上!貴方の子の初陣を勝利で飾りましたよ!」
ホットスパーが励ます様に
「ハリー!大勢は降伏した。ダグラスとジェームズは取り逃したが……む?」
トマス叔父上、陽の光では赤く光るチェリーブロンドを巻き毛に任せて整えた貴婦人の様で確かに女性騎士だが、手にするものは……おれさまとよく似た槍……。
「疲れたろう、迷い子。何ぞもてなしも出来なんだ、今は、ね……だがお前は今グリトニルと縁を結んだ、同じグリトニルの槍手よ。きっと次はもてなそうぞ」
「シチューがいいです叔父上!シチューの気分なんです!」
「こらこら静まりなさい、ハリー。同じ光に至りしグリトニルの槍手、願わくば」
グリトニル?グリトニルって槍の名前なのか?
トマス叔父上は柔らかい微笑みを向ける、何もかも見透かす太陽の様な目に見つめられておれさまは言葉を失う。

 「忘れないで、忘れないで、貴方はわたし、わたしは貴方、そこから羽ばたいて手を伸ばして。救済の槍に救済あれ」

目覚めたおれさまは夢に見たハリー・ホットスパーと、彼の騎兵手ほどきを買ったばかりのノートに書き記す。夢が一つ叶ったみたいな気分で、カフェの紅茶とケーキをおかわりする。大した絵にならなかったけれど、まだ記憶に鮮明なホットスパーの姿を書いておく。14世紀のホットスパーやトマス叔父上には肖像画の文化がないから記録もなかった。いつかこれに似せた肖像画を依頼するかな、おれさまが油彩で描くには荷が重いなあ。
家系図の中にある「トマス叔父上」、ラルフ・ネヴィルとの子の「パーシヴァル」は偶然だったんだろう。
そんな偶然でも、夢であっても、感じた記憶を本物かどうか決めるのはおれさまなのだから。
いいじゃないか。ハウスレコードをどう書いてもいいじゃないか。
「30代ノーサンバランド公、7月にてハリー・ホットスパーとホミルドンヒルで邂逅する」
きっと未来のパーシー家は、おれさまは大変なアホウだと思うだろう。
ハリー・ホットスパーだって当時はHotspur向こう見ず、アホウの類に近い英雄と言われたんだ。
おれさまは英雄にはなれない。英雄なんてなりたくない、アホウだと言われ続けていい。
****************

https://talto.cc/projects/Vy39dJbu6p0HZzb9i50Cy
Dream in dreamingソロジャーナルRPGよりプレイング小説を創作

【これはソロジャーナルRPG「Dream in Dreaming」のプレイログです。システムの著作権は晴海悠に帰属します】

【1夜目】ダイスロール判定

眠りの深さ→ダイス1 うとうと【1場面】

場面→1 広陵  地平線の見える野原

もの・人物→3 安穏 居心地のいい椅子 

出来事の意味→2 歓喜 思いを遂げる 心がはやる

いいなと思ったら応援しよう!