#180 【雑感】 短縮形と、そして有標と無標について
markednessと呼ばれる、言語学の有標、無標については、英語を扱う際にはかなり気になることが多い。
というのは、次の単語群があるからだ。
(a) flu ← influenza
(b) fridge(frig) ← refrigerator
(c) soccer ← association (football)
いろいろと事情があるが、上の3つの単語は、その真ん中を取り出して短縮形を作っている(厳密には短縮形ではないとされる語もあるが、一応ここでは短縮形と捉える)。真ん中を取り出すのは、短縮形の生成法としては、あまり見られない現象かと思う。
例えば、マクドナルドは冒頭を取り、マックかマクドかという話はあるが、「クドナ」や「ドナル」という人はあまりいない。レモンスカッシュも「レスカ」となっても、「モンス」や「ンスカ」もない。ンスカって何⁉︎
で、この短縮形について説明する時に重宝されるのが、有標性の考え方である。ぜひ、ウヒョー!と思いつつ読んでいただきたい(冗談です)。
有標と無標の例
例えば、携帯電話は「ケータイ」となるが、「携帯」「電話」と2つに分けた際に、重要な方の電話が省略される。これは2つを比べると、「電話」が無標(=より一般性が高い)で、「携帯」が有標(=より特殊)だからと考えることが可能だ。
「電話持った?」では、固定電話なのか携帯電話なのか分からないから、2者を区別する「携帯」の方が使用される。
同じような言葉にウィンナーがある。ご存じの通り、ウィンナーソーセージの短縮形だが、フランクフルトソーセージなどと併せて考えると「ウィンナー」が有標で「ソーセージ」が無標である。だからウィンナーだけが取り出される。
なお、このnoteでも何度か述べてきた通り、ウィンナーが「ウィーンの」という意味だと知る人は少ない。
3単語の確認
では、上記の有標、無標の考えを含めて、上の3つの単語を見てみる。
(a) influenza
単語influenzaをfluとしてきたのは、KDEEでは1839年とされている。一方、etymonlineでは1839年からflueで始まり、fluと3文字になったのは、1893年からとされている。
G6などの辞書ではin-flu-en-zaと文節分けされているが、in/en/zaを取り出しても、他の語との区別や意味の読み取りが難しい。なのでfluentの由来ともなるfluere "to flow"に端を発する、有標とすることができるflu(e)を取り出したのだろう。influenzaはイタリア語経由とされるが、短縮形を作るのにも一苦労である。
(b) fridge
元はrefrigeratorだが、re-friger-ate-or(再び・冷蔵・する・もの)と分析して、有標なfrigerを取り出すことを選んだのだろう。refなど取り出しても、何を指すかよく分からないという事情も絡んだに違いない。ちなみにfridgeの綴りにdがいつ挿入されたかは不明である。
(c) soccer
soccerについては、以前も話題にしたが、associationの最初の3文字を取り出すと大きな声で言いにくいという大人の事情があった。そこで、真ん中のsocを取り出し、1900年ごろに大学で流行っていた-erをつけたとされている。
「協会フットボール」が由来であり、「ラグビーフットボール」などと並べると、当然「協会」を表すassociationが有標となり、さらに長いので、短縮する際にsocが取り出された。
なので、日本サッカー協会をどう英語にするかは難しい問題となっている。うっかりsoccer associationとかすると、意味的にはassociation associationとなり、「大事なことなので2回言いました」状態になる。
まとめ
以上、短縮形を考える際に有標、無標に注目することについて書いた。昔からケータイなどの単語を見るたびに最も大事な「電話」を省略するのは何故か不思議に思っていたが、無標だからというのは、一応の説明になる。
ただこの有標、無標については、扱いが難しい部分もあることが堀田先生のhellogの#4745に述べられているので、要参照である。
今日はこんなところです。