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#125 Ketchupの謎に迫る。

ケチャップと聞くと、普通はトマトケチャップを思い浮かべる。だが、ふとしたことで、ketchupについて、語源を調べていないことに気づいた。

語源中毒として痛恨の一撃!と大きなダメージを負いつつも、さっそく英語語源辞典こと、KDEEで調べてみる。すると、驚きの事実が! 

なんとケチャップはもともとは魚醤(魚を発酵させて作る)のような調味料を意味していた。なぜ、それが現在のようなトマトケチャップを意味するように? 今回はそのケチャップの謎に迫りたい!

マレー語、または中国語だったケチャップ

ketchup n. (1711) ケチャップ。◆  Malay kěchap □ Chin.(広東方言)koechiap, ketsiap(茄汁)"brine of pickled fish" - $${\textit{kōl}}$$ minced seafood + $${\textit{tsiap}}$$ brine, sauce, juice.

研究社「英語語源辞典」 "Ketchup" p.764

上記のように英語語源辞典こと、KDEEで調べると、ケチャップは英語としては1711年から使用されている。

驚いたことに、語源はマレー語や中国語方言とされていて、brine of pickled fish=塩漬けにされた魚の汁なので、どうも魚醤っぽい感じであることがわかる。上記では、ケチャップの「ケ」が魚で、「チャップ」が汁である。

Wikipediaで調べてみると「魚介類の塩漬けを発酵させた液体調味料(魚醤)の呼び名が、語源と考えられている」との表記がある。つまり、醤油などと同じ系列のものだった。驚きである、実際、台湾などでは、「鮭汁」など魚を連想させる漢字が使用されている。


なぜトマトに?

その魚醤が、なぜ現在のトマトに変化したのか。上記のサイト等を丹念にみてみる。すると、まずヨーロッパに伝わった際に、牡蠣やロブスターなどを発酵させたもの以外に、きのこに塩をふりかけて出てきた汁に香辛料を加えてできたものもケチャップと呼ばれたという事実が浮かび上がる。

なお、イギリスではすでに17世紀に、ケチャップという単語自体は、割とポピュラーになっていたらしい。ただし、ketchupという綴り以外のものも出てきている。たとえば、有名なJohnsonの辞書(1775)では、ca'tsupと綴られている(そして、やはりmushroomが説明に出てきている)。

Ca'tsup. n.s. A kind of Indian pickle, imitated by pickled mushrooms.

https://johnsonsdictionaryonline.com/views/search.php?term=ketchup 


きのこケチャップ

以下に示す1732年の本では、きのこケチャップのレシピが142ページに載っている。使用時に、塩またはアンチョビを加えるよう説明が添えられているものだ(または、作成時にアンチョビを加えて塩気を整えるのが、この時代のレシピだったようだ)。このように18世紀はきのこケチャップの時代だったようだ。

1732年のイギリスの本より(インターネット・アーカイブから)

トマトケチャップの時代となった19世紀

19世紀になると、アメリカに移住した人々が、きのこではなく、トマトで同じような調味料を作成する。Wikipediaによれば、その当時のアメリカのトマトは酸味が強く、たくさん売れ残っていたため、トマトをケチャップの原料として使うようになったとされる(トマトケチャップ好きな方は、この時代のトマトがそう美味しくなかったことに感謝すべきかもしれない)。

トマトケチャップの歴史については、以下のサイトが詳しいが、やはり最初はきのこケチャップのレシピを引き継ぎ、アンチョビを加えるレシピが使用されていたようだ。アンチョビを使わないレシピは、1850年ぐらいから始まったらしい。

トマトケチャップが瓶詰めされ、全国的に販売され始めたのは1837年からとされる。ただし、現在有名なHEINZではなかったとのこと。HEINZのトマトケチャップの販売は1876年からである。それまでのものよりも、砂糖と酢の量を多くし、風味を増して、長持ちするように手を加えたようだ。

なお、初期のトマトケチャップでは、安息香酸ナトリウムが保存料として使われていたが、健康上の懸念が広がり、その当時、アメリカの農業省で働いていたKatherine Bitting博士が、1909年に砂糖と酢をさらに加えれば、保存料がなくても長持ちすることを明らかにした。これにより、現在のトマトケチャップに近いものができたようだ(ただ、このBitting博士は夫婦で自宅をケチャップ工場に改造して、研究を進めたとの記述があるが、そこまでして突き止めることになった経緯を知りたい気もした)。

そして日本へ

日本には、19世紀後半の明治時代に上記のアメリカから伝わった。そのため、最初からケチャップと言えば、トマトケチャップだった。このように東アジアで生まれたケチャップは長い旅を経て、日本に伝わり、現在のようにオムライスにケチャップでハートを描くなどの文化が生まれた。

まとめ

以下、今日のまとめである。

日本でも非常に馴染み深いケチャップとは、当初は東アジアで、魚醤のような調味料を指す語だった。それがヨーロッパに伝わり、18世紀ごろには、きのこを使い、アンチョビで塩気を加えた調味料をもケチャップと呼ぶようになる。

さらに、19世紀にアメリカにケチャップが伝わった時には、酸味が強く、売れ残ったトマトを活用して、その原料に使うようになり、現在のトマトケチャップへと繋がっていく。

このような歴史を経ているため、現在では、ケチャップとしては、トマトケチャップ以外にも、きのこケチャップがある。場所によっては、上記に示した以外の材料を使ったものとして、バナナケチャップ(クリック)も存在する。

調べてみると、やはり世界中に広がっている食べ物には、それぞれの歴史があることがわかる。今後もまたいろいろと調べてみたいと感じた。

今日はこんなところです。


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