#59 欠地王ジョンから始まる、「英語教師のための英語史」の第3章を読む(その1)。
辺見、他(2018)の「英語教師のための英語史」第3章は、いよいよ中英語(Middle English = ME)に突入。まず歴史から入っている。中英語を扱う章なので、内容がとても深い。きっと、このページ数では書けないよと筆者は感じたのではないかと、その苦労が偲ばれる章である。
ノルマン征服
まずは、1066年のノルマン征服が挙げられている。中英語としては、ノルマン征服から。王道である。まず最初に中英語の頃のイギリスの状況として書かれた、「話し言葉としての英語、書記ではフランス語、そして宗教の場ではラテン語」という言葉が趣深い。そのまま欠地王ジョンのフランス領土喪失とマグナ・カルタのことが述べられている。英語史的には、仏領を喪失したことが愛国心につながったり、マグナ・カルタを承認したことが民主主義の発達につながり、どちらも重要な意味を持つと考えられる。が、しかし、やはり失政続きで誰もジョンの名を継承しなかったことから考えると、欠地王ジョンの失政は相当だったのだろうと想像される。
方言
次に掲載されているのは、MEの頃の方言である。活版印刷のCaxtonの逸話(卵の例)が掲載されており、ロンドンでは卵がeggys、80km離れたSandwichなどがあるKent州ではeyrenで、相互に通じなかったことが示されている。また、北部、西部、東部、南西部、南東部の方言に関して、三人称複数人称代名詞や、3単現のs(当時は-es, eth等であった)、shall/shouldの語頭音(/s/か/ʃ/か)が例文とともにそれぞれ示されており、比較するとおもしろい。また、「話し言葉としての英語」が国語として地位を得ることになった2つの出来事が示されている。
活版印刷
上記のCaxtonが活版印刷を進めたが、今ではあまり考えられないことに、その当時は印刷業者がさまざまな編集をしていたことが掲載されている。綴りを変えたり(Theに該当するYeなど)、行を揃えるために語末にeやpを重ねたり、大幅な加筆修正を加えたことが示されている(印刷バージョンと手書きの写本を比較されており、その差がわかる)。たとえば、完了形についてもhaveを取るかbe動詞を取るか、また疑問文を単に主語と動詞をVSとして表現したか、または迂言的doを用いたかなど、この印刷業者バージョンと手書きバージョンで異なっていることが示されている。中英語の頃は、綴りも文法もまだまだ不統一な時代だったことがわかる。
(この3章は長いため、「その2」に続く)
今日のWords of the day. さまざまな辞書から。
insuperable (adj) ラテン語の「insuperabilis」から。「in-(否定)」+「superare(超える)」に由来。後者は印欧祖語*uperに遡るが、同根語には、hyper、sovereign、summitなどがあり、興味深い。
clotted cream (n) こんな美味しそうな単語をWDにするとはさすがCollins。紅茶シリーズが続く。なお、アメリカではDavonshire creamと呼ばれており、この紅茶シリーズの最初の単語はDavonだったことを思い出す。
rehabilitate (v) ラテン語の「rehabilitare」から。「re-(再び)」+「habilitare(適合させる)」に由来。
rumour (v) ラテン語 rumorem から。印欧祖語*reu- "to bellow"に遡れるか、というところ。
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