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ハンディサイズの美術辞典が欲しい

 通信の美術大学に入ってしばらくして、私は紙の辞書を購入した。
 大学在学中はブリタニカ大項目辞典(もちろんネット)を使うことができる。加えてコトバンクなどのネット辞書類も今は充実している。レポートを書く際、紙の辞書が必要だったわけではないが、野口悠紀雄さんが公務員試験の経済系科目を勉強する際、経済学の辞書を読んでいたというエピソードを本で読んでしまった。面白そうだと思ったら、すぐ真似したくなるのが私の悪い性分である。

 購入したのは新潮社版の『新潮世界美術辞典』。1985年の本で、購入値段は送料込みで2000円ちょっと。販売当初は19000円だったというのだから、だいぶお安い値段である。

 西洋・日本のみならず、東洋の美術史や遠近法などの芸術理論、美学についても言及されているのが嬉しい。ちょうど40年前、1985年に刊行された辞書ということもあり、新版画の吉田博・川瀬巴水の項目が設けられられていなかったりもするが、それはそれで興味深かったりもする(日本で逆輸入の形で新版画ブームが起きるのは1980年代で、研究が追いついていなかったと推測される)。

 最近の個人的な辞書読みブームの影響もあり、最近、この辞書もまた読むようになっている。ひょっとしたら大学に通っていたころ以上に読んでいるかもしれない。

 ただし、この辞書には一つ、深刻な問題がある。

 …おわかりいただけただろうか。比較のために出した新明解国語辞典(第七版)の寸法は14.0×4.0×19.3cmほど(箱を計測)。これに対し、新潮世界美術辞典は20.0×6.4×27cmほど。とてもじゃないが、お手軽なサイズなどとは到底言えない。
 SMK(新明解国語辞典)であればまだ鞄に入れて持ち歩くことも可能だが、新潮世界美術辞典を持ち歩くとなると、専用のトートバッグが別に必要となる。重さは2.8kg、ちょっとした新生児ぐらいの重さがあるため、バッグには強度も必要だ(ちなみにSMKは800g)。おしゃれなcaféでSMKを読んでいる分には「ちょっと変わっているな」ぐらいでギリギリスルーしてもらえる(気がする)が、このサイズの辞書を、アップルパイをつまみながら読んでいようものなら、バックヤードから刺股を持った店長が現れかねない(そんなことはない)。

 家で読むのもそれなりに大変、ということで、これに代わる辞書がないか…と探しているのだけど、なかなか自分にとって「理想」と言える辞書には出会えていない。どんなに大きくてもSMK程度のサイズ感、そして内容的にも主要地域(日本・西洋・東洋)の美術史、芸術理論、美学はある程度網羅していて欲しい。読み物の体裁を取らずあくまで「辞書」として使えるもの、ついでに言うと書き込みとかもしたいので、中古で購入するなら定価以上のプレミアがついていない本が良い。
 しかしそういう本はなかなか見つからない。そのほとんどが地域別・テーマ別に特化してしまっている。図書館の参考図書コーナーで確認しても、そのほとんどが特定のテーマに絞ったもの、あるいは旧仮名遣いの稀覯本ばかり。自分の理想を完全に叶えようとすると、複数巻あるようなもっと大きい辞典になってしまう。

 私は結局妥協し、西洋美術に特化した小辞典を購入した。届いて、読んで、使ってみて、面白かったらまたここでも触れるかもしれない。



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