【画像72枚】「三島喜美代―未来への記憶」(練馬区立美術館)
私が始めて三島さんの作品を観たのは2021年、六本木・森美術館のグループ展。割と政治的なものにも傾きやすいテーマの展覧会で、作品はおろかインタビュー映像も力んだもの、気取ったものが多いなか、大阪のおばちゃん全開の自然体で語る三島さんの姿はひときわ印象的でした(ちなみに十三だそうです)。
缶や新聞・チラシなどの「ゴミ」を題材に陶器を作るという作品アイデアも新鮮で、ほどなくしてART FACTORY城南島に常設展示されている《20世紀の記憶》も観に行きました(※過去記事のリンクは【参考】にまとめてあります)。以来、行ける展覧会は努めて行くようにしている芸術家です。
今回はそんな三島さんのデビュー当時から現在に至るまでの回顧展。最初は油彩から始まって、抽象画や身の回りのモノを使ったコラージュ、そして彼女の代名詞とも言える陶でつくった「ゴミ」の作品、そして溶融スラグ(焼却灰をさらに加熱・溶融することによって生まれるガラス状の物質)や車輪や時計など、本当のゴミを使った作品(一種のレディメイド回帰)と、一通りの作品が展示されております。
作品には「情報社会に対する不安の可視化」というようなコンセプトはあるものの、三島さんはそれを声高に語るようなことはしません。陶土の有限性を知って溶融スラグを使うなど、決して何も考えていないわけでもないと思いますが、本人としてはもっと純粋に、作品制作を楽しんで取り組んでいるように見えます。他の芸術家の名前を出すのはあれですが、「思いっきり遊ぶ」ことを第一に考える三島さんの姿は、往年のデュシャンと重なるところもあります。
こういう作品を観て、これは情報社会が… 環境問題が… と、眉をしかめて考えるのも一つの鑑賞ですが、三島さんが楽しんで作品制作をされている以上、こちらもまずは楽しんで作品鑑賞をしたいなと思いました。コンセプトについてはそこからあとでも良いというか。
中でも今回貴重だと思ったのは、三島さんの作品(空き缶を陶で模したもの)が実際に手で触れられること。ちなみにネットで調べると一般的なアルミ缶の重さは15〜19グラムほど。単三電池1個ぐらいの重さですが、三島さんの作品を持ち上げてみると、それが厚手の、少し大きな湯呑みのような重量感があります(100グラムはあるんでしょうか)。観るだけではわからなかった、「情報」が実態をもって現れるとはなるほど、こういうことかと。
展示室を1室フルに使っての《20世紀の記憶》も圧巻。インスタレーションがあまりにも大きすぎて、作品を一方面から観られないというのは少し残念でしたが(是非とも城南島へ…!)、やはりこれも、時代に対する不安と同時かそれ以上に「楽しみ」がやってくる作品。実家から送られてきた古新聞を楽しむような感覚で楽しんでほしい作品です(そう言えば、新聞の中に近藤真彦がいましたね)。
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ご存知の通り三島さんは先月19日に死去(享年91)。これが生前最後の展覧会ということになってしまいました。27日の朝にそのニュースを聞いたときはがっくりしてしまったんですが、今日観た、昨年岐阜で開催された展覧会用に撮影されたインタビュー映像で、若いアーティストたちに向けて、
「がんばってくださいね」
「面白いなと思ったら(理由をつけて引っ込めるんじゃなく)やってみてください」
と仰っていたことに、(別にアーティストでもない私ですが)妙に励まされてもいました。この一言をいただけただけでも、練馬まで来た甲斐があるというものです。
無邪気に作品と戯れているようでいて、実は三島さんの芸術にこそ多くのこと、そして大切なことを学んでいるような気もします。本当に、新作が出てこないということは寂しくもあるんですが… なんとか今回の展覧会に間に合って良かったです。
とりあえずはまた、新しい三島さん関連の展覧会が開催されることを心待ちにしたいと思います。そしてひとまず、ありがとうございました。
【参考】
アナザー・エレジー展(2021、森美術館)
KIMIYO MISHIMA INSTALLATION(2021、ARTFACTORY城南島)
@有楽町CADAN(2021年)
三島喜美代展(2022、銀座蔦屋書店)
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