【画像49枚】「アルフォンス・ミュシャ展 アール・ヌーヴォーの美しきミューズ」(茅ヶ崎市美術館)
1894年、オペラ『ジスモンダ』のヒットを受け追加公演が決定、主演女優のサラ・ベルナールが新しいポスター制作を印刷所に依頼したのは同年12月24日のこと。しかし常連のアーティスト達は休暇中、「1月1日〆切」という急な依頼に唯一対応できたのが、たまたま印刷所で校正をしていたというミュシャでした。ミュシャは挿絵画家としてサラを描いていたこともあり、ポスター制作の依頼を引き受けることに。
そして、1月1日、ミュシャがデザインした『ジスモンダ』のポスターは無事に完成。パリのモリス・コラム(歩道に設置される広告塔)に掲示されると、持ち去り被害が発生するなど、かなりの騒ぎとなったようです。これを見たサラは商魂たくましくポスターを追加印刷し販売、ミュシャとは6年の専属契約を結び、ミュシャは彼女の主演舞台のポスターを手がけていくこととなります。
教育・経済的に恵まれていたとはいえない、一介の挿絵画家でしかなかったミュシャが「アール・ヌーヴォーの旗手」として大きな飛躍を遂げた瞬間です。
今回の展覧会はミュシャ自身の直筆はなく、もちろん〈スラブ叙事詩〉のような大作はさすがに無いのですが(そもそもチェコから出て来ないんじゃないかと…)、それ以外のものは一通り揃っているのではないでしょうか。作品の保存状態が非常に良いのも好感が持てました。
『ジスモンダ』に関して言えば、主演女優ベルナールの表情はもちろん、衣服、蘭の頭飾りや手に持つヤシの枝、ビザンティン様式のモザイクタイル…そういったものの細部が緻密に描かれていて、それらがアラビア数字の「2」のような曲線的な構図で綺麗にまとめられていると思いました。〆切に間に合わず一部空白となったからこそ、その構図はむしろ明確。
この「2」構図は後に制作された、『モナコ・モンテ・カルロ』のポスターなどにも反映されていたりします。
この他にも挿絵画家時代の作品、アール・ヌーヴォーの後進に影響を与えたと観られる図案集『装飾資料集』『装飾人物集』、そしてチェコに帰国後の諸作品も素晴らしいです。特に『装飾資料集』、人がいなかったとしても作品として成立してしまいそうなのが恐ろしいところ。
イラストと絵画の中間を行く、ミュシャ芸術の魅力を改めて味わってまいりました。自身は大衆のための絵描きを自認されていたそうですが、構図の美しさと描写の緻密さで鑑賞者を導く直感性、しかし大衆向けだからと言って卑俗に陥らず、むしろ高みに連れて行ってくれるような気高さ。
人気芸術家で印刷物ということもあり展覧会の開催機会も多く、私自身4-5回目のミュシャ展ですが、飽きるどころか、むしろ新しい目を開かされる展覧会でした。
個人的には手術入院を一度挟み、およそ一ヶ月半ぶりの美術館、実家以上に「ただいま」感のある美術展でした。トラブルらしいトラブルも無く、これを書くまでのワンセットを無事完遂できたことがちょっとだけ誇らしい。
もう一度手術もありますし、以前のようにバンバン… というのはまだまだ先にはなるかと思いますが、それでもなんとか、また美術館に帰ってくることができたらと。
<参考>
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※2024/06/27、動画リンク追加。